ナルキッソスといえばナルシストの語源となったアレな人物なのだが、読んでみると結構気の毒な奴なのである。

 

そもそも、ナルキッソスは本当にナルシストだったのだろうか?
エーコーに言い寄られた際に、「おまえに抱かれるぐらいなら死んでしまった方がいい」とかもったいないことを口走っているので、重度の女嫌いであったことは窺える。

だが、見ず知らずの姉ちゃんにいきなり抱きつかれても困るのが普通だし、それをもってナルシストと決め付けるのは早計だろう。

ホモセクシャルの気があったか、幼少期に女性に対するトラウマを負ってたかも知れないのだ。

 

さて、ナキッソスがナルシストと決め付けられるのは、泉に映る自分を見て惚れてしまったからなのだが、これには前フリがある。

エーコーを始め、ナルキッソスに相手にされず振られてしまったニュムペーは多かったらしく、その中の一人が、神に祈りを捧げてしまった。
「ナルキッソスもいつか相手がたまらなく好きになり、しかもその愛に報いられないような思いをさせてやってほしい」
どう考えても逆恨みだと思うのだが、これをよりにもよって復讐の女神(ネメシス)が聞き入れてしまう。

復讐の女神といえば今も昔もいろいろ忙しいだろうに、ナルキッソスにとって不幸なことにちょうど暇だったらしい。

 

 

ナルキッソスが泉に映る自分をみて絶世の美女と勘違いしてしまうのはこの後のことであり、つまり彼本来の意志ではなくネメシスの力によってそう思わされたということになる。
(数多のニュムペーを振ったということは結構狩りに出かけているということで、その間一度も泉の水に近寄らなかったと考えるのは無理があるので、それまでは自分の顔を見ていてもなんとも思わなかったはずなのだ)

 

この後、ナルキッソスは自分に惚れすぎて生気を失いついにはやせ衰えて死んでしまい、水仙の花にその姿を変えてしまう訳だが、自分に惚れていた訳ではなく、ネメシスの見せる幻の女に惚れた訳だから結局女嫌いでもなかったことになる。

それどころか、一旦相手を見つけたら死ぬほど愛してしまう純な心の持ち主ではないか。

彼はただ、ワーキャー言って近づいてくるミーハー女が嫌いだっただけなのだ。

 

なにより、気の毒じゃありませんか、初めて恋をしたら相手は復讐の女神の創りだした幻覚だったなんて…

 

もてる男(女)はくれぐれも女(男)性の扱いには気をつけるべし。

知らない内に、ネメシスに願い事をされているかも知れませんw

 

 

※エーコー エコーの語源となったニュムペー(ニンフ、妖精みたいなもの。っても、羽の生えたちびっ子ではなくて~の精って感じのちょいエロな若い姉ちゃん)ナルキッソスと出会ったときにはまだ肉体があった。

ただし、ゼウスといちゃついていた他のニュムペーを舌先三寸で逃がしたせいでヘーラーに答える場合しか舌を使えないという罰をくらっている。

問いかけに対する答えしか返せないせいもあってナルキッソスにふられてしまい、洞窟や山奥の崖の間に住むようになった。そして、悲しみのせいで肉体を失ったが、その後も声だけは残って呼びかけに対する答えを返しているのだそうな。

こちらも、気まぐれな神様の犠牲者。(ゼウスの浮気とヘーラーの嫉妬のせいで相当数の犠牲者が出ている)ちなみに、アルテミスのお気に入りで美しいニュムペーだったと紹介されている。

 

※ネメシス 人間の思い上がった無礼な行為に対する神々の憤りを象徴する女神。

復讐の女神的には、他にエリーニュスという、メデューサのように頭に蛇を生やしたおそろしげな女神たちがいる。こちらは、公の裁判を逃れたり、あるいはそれを無視したりする人々を罰する。アーレークトー、ティーシポネー、メガイラの3柱。