ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

読売新聞の記者はなぜ「捏造」したのか? 「訂正記事にも問題が…」というまさかの展開に驚いた!

 今回はこちらの「事件」についてです。 『読売新聞記者が諭旨退職、幹部も更迭へ 紅麹サプリ巡る談話捏造』(毎日新聞デジタル5月1日)

 

  【画像】談話を捏造した記者を処分

 

 この記事によると、小林製薬の紅こうじ成分入りサプリメント問題を巡る記事で取材先の談話を捏造したとして、読売新聞大阪本社は1日、社会部主任の記者(48)を諭旨退職、取材をした岡山支局記者(53)を記者職から外し、休職1カ月の懲戒処分にすると明らかにした。編集局幹部ら3人も更迭する方針だという。

読売新聞はどう報じたか

 ではこのニュース、読売新聞はどう報じてきたのか。問題の記事は4月6日付夕刊だった。 『紅麴使用事業者 憤り 小林製薬製 回収・販売中止 打撃』(読売新聞)  小林製薬と取引がある企業について書いている。商品の自主回収や顧客への説明に追われていると。ソーセージやベーコンを製造・販売する岡山県の企業の社長談話として、 〈「突然、『危険性がある』と言われて驚いた。主力商品を失い、経営へのダメージは小さくない」 「補償について小林製薬から明確な連絡はなく、早く説明してほしい」〉 

 などが載っていた。写真には「『早く説明がほしい』と訴える森社長」というキャプションもあった。記事の見出しに「憤り」とあるのはそのためだろう。

ふわっとした「訂正」にザワザワ

 ところが、2日後(4月8日)の夕刊に「訂正 おわび」が載った。6日付の記事について次の社長談話を削除するという。

〈「突然、『危険性がある』と言われて驚いた。」 「補償について小林製薬から明確な連絡はなく、早く説明してほしい」〉

 写真説明も「自主回収したソーセージと原料の紅麴を見せる森社長」に差し替えるという。記事の最後には「いずれも確認が不十分でした」とある。 

 

 このふわっとした「訂正 おわび」。結局のところ社長は何を言っていたのかわからない。読者はザワザワしたに違いない。

 

  すると4月17日付の夕刊に『談話を捏造 本紙記者を処分』(読売新聞)。

 

  なんと、談話そのものが捏造だったという。要点を抜粋する。 〈《原稿のとりまとめを担当した大阪本社社会部主任(48)が、談話を捏造していたことがわかりました。》 《取材・執筆した岡山支局の記者(53)も、自身が取材した岡山県内の取引先企業の社長が言っていない内容であることを知りながら修正・削除を求めませんでした。》〉 

 

 ではなぜ捏造したのか?

 

捏造の経緯は…

 社会部主任は「岡山支局から届いた原稿のトーンが、(小林製薬への憤りという)自分がイメージしていたものと違った」と話しているという。さらに取材記者も「社会部が求めるトーンに合わせたいと思った」と。トーン? これは覚えておきたい。

 

  まだある。《8日夕刊で談話を削除する「訂正 おわび」を掲載しましたが、社長が発言していなかった事実が示されておらす、末尾にある「確認が不十分でした」という文言も事実とは異なり、訂正記事にも問題があったと考えています》とあった。

  談話の捏造だけでなく、訂正記事も問題という驚きの展開となった。5月1日の読売新聞朝刊には訂正記事掲載の経緯が書かれていた。

 

《記事掲載後、企業社長から抗議を受け、大阪社会部と岡山支局は問題を把握したが、編集幹部らが事態を甘く見て捏造と明確に認識せず、十分な社内検討を経ないまま、8日夕刊に「確認が不十分でした」とする事実と異なる訂正記事を掲載した。訂正記事をきっかけに東京本社編集局が指摘し、捏造を確認した。》 

 

 それにしても皮肉だ。できることなら曖昧な説明で乗り切りたかったという大阪本社の「気分」が伝わってくるが、これは読売新聞が記事にしていた小林製薬の一連の対応と似ていないだろうか。

 

  談話の捏造に話を戻せば、注目すべきは「トーン」というキーワードだろう。不祥事の追及を目指すあまり、「正義」がベースなら事実と異なる記事もありという不正義が、捏造された談話というかたちで可視化された。

各記事の「トーン」を読み比べ

読売新聞グループ本社の山口寿一社長 ©時事通信社

 

 それにしても「トーン」。これを頭に入れて別の読み比べをしてみたい。次のニュースだ。 『築地市場再開発 プロ野球・巨人は移転するのか? 「スタジアム構想」など事業者が内容説明』(NHK5月1日) 

 

 東京都は、6年前に閉鎖された築地市場跡地の再開発を担う事業者を三井不動産を代表としたトヨタ不動産、読売新聞グループ本社など11社の企業連合に決めた。ここに「読売新聞」が入っていることが以前から注目されていた。週刊誌やタブロイド紙ではプロ野球・巨人が本拠地を東京ドームから築地に移転するのでは? と数年前から報道されていたのだ。その噂通りに今回事業者が決定し、およそ5万人を収容できる多機能型スタジアムを整備するなどの提案内容を会見で説明した。 

 

 会見には読売新聞グループ本社の山口寿一社長も出席。巨人のオーナーも務める山口社長は、本拠地を新スタジアムに移転するのか問われ次のように答えた。

 

「魅力的なスタジアムで使ってみたいという気持ちはあるが、移転を前提に計画、提案していない。さらにプロ野球の球団の本拠地移転は大仕事になるし相当な調整が必要で読売新聞だけで決められることではない」 

 

 するとスポーツ紙ではこうなる。 『築地新スタジアム 巨人オーナー「使ってみたい」』(日刊スポーツ5月2日)

 

 では読売新聞はどう報じたか。

すっとぼける読売新聞

『築地 東京の顔に 「スタジアム 本物の臨場感」 再開発会見』(読売新聞5月2日)

  山口社長は、 《「それぞれの競技やライブに最適な空間に変化し、観客は本物の臨場感が得られる。国際的に知られる施設を目指したい」と強調した。》  とある。そして、 《野球では、米大リーグのほか、アジア地域の国際試合の開催を検討する方針を示した。》  巨人の名前は一切出てこない。国際試合の開催を強調している。仮に、記事に「トーン」があるとすると、NHKからスポーツ紙まで「やっぱり巨人の新本拠地になるんでしょ?」と注目している中、読売新聞はあくまで「国際的な施設になります」とすっとぼけているように感じる。このトーンが切り替わるのはいつのタイミングなのか? なかなか興味深い読み比べでした。

プチ鹿島