雨はやまない

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ただじっと死んでゆくのを待っている浸透圧におかされて、夏
数日の余命を告げるくちびるのうごきちいさくとじる世界へ
友引を意識し始む強烈な雨に打たれて多分かなしい
ゆるゆると死に近づけば病室の温度を低くたもちぬ
蝉時雨また降りそそぎしずもりてまた降りそそぐ読経のように
安らかな顔であったと思いたき真夜中に降る雨はやわらか
白百合のかおり満ちたり死化粧の紅をなかなか決められずいる
湯灌せし母のからだに触れてのちしんしんとする夏の最中に
かたちだけとどめおきたり冷たさはドライアイスの冷たさなりき 
ゆるやかに庫内の桃は熟れてゆく今年の夏も雨がやまない
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永訣の夏

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ぼろきれのようにすり減り永訣の夏は小雨がずっとやまない
水たまりさけて向かえば病棟の窓の硝子がつめたく光る
空調の管理されたる病室の真白きシーツに眠ったあなたは
ほのじろき線香花火は胸裡にJUJUJUとおちて焼けてゆくなり
他人ゆえ満ちゆく器持ちたれば透明深度はいよよ高まる
水滴のおちるグラスのその前で余命を告げる声のたしかさ
整理する抽斗ありてそれぞれの齢重ねる光やさしき
海馬よりあふれる水のあることを知ってあなたはみずうみになる
真っ青なデスクトップを乱雑に散らかしておく 春がくるまで
葛の花 凌霄花が好きだったあの夏にいた小鳥を返して
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飼われる金魚

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くれないの胸鰭ひらりゆらめきぬ浄水場で飼われる金魚
魂をひとつ持ちたるくれないの金魚のかたちを歪になぞる
それはもう季節はずれの真夏日を体現している男のことば
無休にて水は潤い無機物に呑みこまれゆく世界あるいは
それぞれに選び選ばれ西瓜には大きく書かれる“糖度十二度”
種無しの葡萄ひとふさ購ってやましさ少し希釈するなり
カーストの頂点つめたき湿り気を隠しだれもが欲しがる剣
川の名をひとつ覚えてその夜のあなたの名前をひとつ忘れる
蛇口より偽物ばかり流れればいつしかわれも偽物なりき
雨に濡れ開かぬ頁があることでもっとやさしくちいさくなれる
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