深き溝

テーマ:
錠剤はほどほど白く無防備な夜のからだにとけてゆくなり
しろたえの標本木はどこにある  新体制の事務室は雨
雌の木と雄の木のあるさくらにて惑わせがちな夜に散りたる
やりなおしきかぬ齢にはらはらとはなびら落とす 生きねばならず
傘もなく途方にくれるながびいた男尊女卑の会議おわれば
まっすぐに歩いたつもりが3°ほどずれてゆきたり 春はまだ来ぬ
確固たる座標もたねば液体のような女になるしかなくて
ジェンダーの深き溝にて山あいの里の緑はますます増したり
交尾せし気配のこして飼い猫はなにごともなく水を飲みたり
月食は雲に隠れるくきやかに知らないほうがいいこともある

ひとりとひとり

テーマ:
雨の日は全てが重たくやわやわとからだをのばす猫を飼いたし
ても縋りきれない満月に本音こぼせば擦過傷なり
勝敗は掌にありちくちくの金平糖をふたつ握って
結末をきみにあずけて白百合のわさわさ咲いた茶房にひとり
これ以上みじめな花を知らぬゆえ大型鋏で切ってしまえり
発情の猫の鳴きたるすぐそばで正直すぎる言い訳を聞く
壊れたる家電の山を眺めいるわたしもきっと壊れているのだ
ふたつめの埋立地なりあの夜に捨てた傘など積まれておるか
リサイクルできぬ部分は埋められる 昇華できないわたしのごとく
感情を可視化させたき夕ぐれにひとりとひとりで迷っているなり

雨はやまない

テーマ:
ただじっと死んでゆくのを待っている浸透圧におかされて、夏
数日の余命を告げるくちびるのうごきちいさくとじる世界へ
友引を意識し始む強烈な雨に打たれて多分かなしい
ゆるゆると死に近づけば病室の温度を低くたもちぬ
蝉時雨また降りそそぎしずもりてまた降りそそぐ読経のように
安らかな顔であったと思いたき真夜中に降る雨はやわらか
白百合のかおり満ちたり死化粧の紅をなかなか決められずいる
湯灌せし母のからだに触れてのちしんしんとする夏の最中に
かたちだけとどめおきたり冷たさはドライアイスの冷たさなりき 
ゆるやかに庫内の桃は熟れてゆく今年の夏も雨がやまない