彼女は、捨てられた猫のように、
段ボール箱の中で、
身体をまるめてます。
僕には、
彼女が、なんで、
段ボール箱に入っているのか?
わかりません。
さらに、
僕にも、来て?って言うんです。
じつは、僕、彼女に、
片思いしているんです。
ですから、
入れるものなら、
一緒に入りたいです。
それで、
彼女が入っている段ボール箱の中に、
足を入れたんですけど、
彼女でいっぱいなので、
しゃがむこともできません。
「ムリだよ」
「入れないのは、
あなたが、
物ではないって思っているからよ」
もちろん、
物ではないって思っています。
段ボール箱では、もっと、ないです。
「この段ボール箱が、小さすぎるんだよ」
「心に、大きいとか、小さいとか、
ないでしょ?」
「このダンボ-ル箱が、
僕の心なのか?」
「あなたの心よ」
段ボール箱が、
僕の心って言われると、
ムッとします。
「どうして、
段ボール箱が、僕の心なんだよ?」
「だって、
段ボール箱が、
物だって思っているでしょ?」
「物だよ」
「だから、物に見えるの。
あなたが見ているものは、
あなたの心なの」
彼女の言っていることが、
ちんぷんかんぷんなんですけど、
考えてみれば、
これは、夢です。
夢だから、
水の底にいるんです。
ところが、
夢だと思ったら、
彼女の言っていることが、
わかったんです。
「あっ、この段ボール箱は、僕だ」
簡単に言えば、
夢は、僕の心だってことです。
「物って、距離って言ったでしょ?
自分と、物とは、
別だと思うことが、距離なの」
「距離?」
「だって、あなたは、
物を、外側から見ていると、
思っているでしょ?」
「内側からは、見えないからね」
「見えるのよ」
「どうやって?」
「物は、あなたの内側にあるのよ?」
確かに、
夢なら、物は、内側にあります。
何もかもが、夢なんですから。
「物が、外側にあると思うから、
距離を作ってしまうの。
それが、
あなたという輪郭を作るの。
そして、
あなたを閉じこめているのよ」
段ボール箱の中の彼女は、
かえって艶(あで)やかで、
僕は、
我慢できないのに、
しゃがむことも、できないでいるんです。
ー つづく ー
心が広いって、
物まで入れちゃうんですね![]()
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