誰にも、つかまらない
彼女が、人通りの多い歩道で、
寝転がっています。
空を見て、笑っています。
異様な光景です。
ところが、
彼女が美人ってこともあるんですけど、
寝ている姿が、美しいです。
行き交う人たちも、
芸術作品を見るようです。
胸を打たれています。
幸せの、作品に、です。
辺りの空気まで染めるような
幸福感です。
見ているこっちの胸の奥まで、
幸せがうずきます。
僕は、寝転んでいる彼女のかたわらに、
座り直しました。
笑っている彼女を見つめます。
「どうして、
そんなに幸せそうなんですか?」
「自由だからでしょ?」
「でも、生きていたら、
自由にならないことってあるでしょ?
ツラいことってあるでしょ?」
「ツラいって思うのも、自由だもの」
「だからって、幸せにはなれないでしょ?」
「なれないのも、自由よ」
「だから、幸せなんですか?」
「それも、自由よ」
僕を見て、
吹き出して笑います。
きっと、僕が、
ヘンな顔をしているからです。
彼女が言いたいのは、
どう思うかは、自由だって
ことです。
常識では理解しづらいですけど、
そういうことです。
それが、彼女の幸せの理由です。
実際、目の前の彼女は、
幸せの魚のように、
自由に泳ぎ回っています。
誰にも、つかまらないって感じです。
急に、うらやましいって、
思いました。
僕も、
自由に泳いでみたいって
思ったんです。
それで、彼女のかたわらに、
寝転びました。
大の字にです。
これまでの僕なら、人通りの多い歩道に、
寝転がるなんて、絶対にできませんでした。
でも、どう思われたって、
そんなことに、つかまりたくなかった。
自分から笑ってみたかったんです。
どんなことがあっても、
その自由だけはあるってことです。
the end
僕らって、いつも、
よく、つかまっていますよね![]()
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最後まで読んでくださって、
ありがとうございます![]()




