A子の証言
都市伝説だと、思っていました。
だって、そんなブランコ、
あるわけないから。
でも、仕事から帰って、
マンションの部屋のドアを開けたとたん、
ブランコがあったんです。
靴脱ぎ場に、
床から50cmくらいに、
板が浮いて、
白い綱で、
天井から、
下がっていました。
「誰が、こんなことしたの?」
イタズラだと、思ったんです。
だって、ドアを開けたら、
ブランコですよ?
「はぁ?????」ですよ。
部屋の隅々まで、
誰も侵入していないことを確認してから、
ブランコを調べました。
よく見ると、
天井から下がっているわけじゃないんです。
白い綱の先が、
モヤモヤっとして、
天井と接触していません。
でも、白い綱を引っ張っても、
しっかりしています。
それで、ブランコに腰掛けてみました。
ちょっと漕いでみます。
気持ちいいです。
揺れて、空間と、こすれる感覚です。
別々だった、わたしと、空間が、
溶け合ってくるんです。
仕事で、がんばっていたわたしの、
皮がむかれてくる。
感覚が、泡立つようで、
切ないです。
遠くに置き去りにしていた感覚が、
近寄ってきて、
広がってくるんです。
ブランコに出会った人が、
行方不明になるっていうのは、
もしかすると、
本当に、消えてしまうのかもしれません。
わたしも、消えそうになりました。
揺らされて、
大きな波に飲み込まれていったんです。
もともと、わたしなんて、
なかったんじゃないかしら?って
感覚なんです。
ー つづく ー

