どうつながるのか?
お婆さんが、わたしに、語(かた)ります。
「私の母の口癖(くちぐせ)が、「こわいねぇ~」だったの」
わたし、隣りの家のお婆さんが、何かくれるって言うんで、来たんです。
わたしのママが、「隣りのお婆さんには、身寄りがないんで、可愛がっていたあなたに、遺産をあげたいって言うんじゃないかしら」って、言うんです。
なんでも、以前に、老人ホームに入居したいって、相談されて、ママが調べたら、入居費用が高額で、さんざん迷ったあげく、「やっぱり、サキちゃんに(わたし)会えなくなるのが淋しいから、サキちゃんに残そうかしら」って、話していたって言うんです。
「そういう遺言を書いておくから」とまで言ったらしいんです。
わたしが、まだ幼くて、毎日のように、隣りのお婆さんの家に、遊びに行っていた頃の話です。
数年ぶりに会ったお婆さんは、一回(ひとまわ)りも、二回(ふたまわ)りも、小さくなったみたいです。
「夏でも、すべての窓を閉め切って、鍵を掛けるの。
エアコンなんてない頃よ。
まるで蒸し風呂だったわ。
母は、窓から誰かが入って来るって、思っていたらしいの」
わたしは、わたしで、その話が、遺産と、どうつながるのか?って、聞いていました。
「とにかく、ニュースを見ても、何を見ても、「こわいねぇ~」しか言わない人だった。
母は、心を病んでいたのかもしれなかったんだけど、私は、気づけなかった。
弟が、ひとり、いたんだけど、働くようになって、心を病んでしまうの。
精神病院にも入院するようになって、母も、そうかも・・・って、気づいたの」
「お婆ちゃんのお母さんは、入院しなかったの?」
お婆さんが、笑います。
「信じられないくらい、がむしゃらに働くだけだったから。
父と、飲食店をやっていたんだけど、父は、「母さんがいれば、誰も雇う必要がない」って言っていたくらいなの。
でも、母を働かせていたのは、「こわいねぇ~」だったの。
きっと、こわくて、仕方なかったのよ」
わたしは、首を傾げました。
何の話を聞いているのか、わからなかったからです。
ー つづく ー
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