その瞬間

 

 

 

 

 この作品は、実話です。体験談です。

 

 

 

 

  前のクルマを追い越そうと、飛び出したとき、すぐ目の前に、対向車が現れました。

 

 

  それまで、対向車線に、クルマはありませんでした。

 

 

  だから、追い越そうと、飛び出したんです。

 

 

  実は、この道路、長い距離に渡って、スプーンのように凹(へこ)んでいて、下がっている区間が、見えないんです。

 

 

  僕が確認したとき、対向車は、凹んでいる区間の中にいたんです。

 

 

  真夏の日射しで、道路も輝いていました。

 

 

  僕が、バイクで、前のクルマの横に飛び出したとき、凹んでいる区間を終えて、対向車が現れたんです。

 

 

   

 

 

  横にもクルマがいて、目の前にも、クルマです。

 

 

  逃げ場がありません。

 

 

  急ブレーキをしたって、一瞬で、正面衝突です。

 

 

  僕の後ろを走っていた友だちは、僕が死んだと思ったらしいです。

 

 

  ところが、その瞬間、時間が止まりました。

 

 

  「え?」って、思いました。

 

 

  でも、本当に止まってるんです。

 

 

  前のクルマも止まっているし、横のクルマも止まっています。

 

 

  僕のバイクも、止まっています。

 

 

  「時間が止まってる?

 

 

  「どういうこと?

 

 

  「こんなことあるの?

 

 

  突然、目の前にクルマが現れたのも、びっくりですけど、時間が止まったのは、もっと、びっくりです。

 

 

  世界が、しん、としてます。

 

 

  立体の絵のようです。

 

 

  僕も、描かれた絵の中の人物のようで、身動きひとつできません。

 

 

 「時間って、止まるの?

 

 

  不思議がっているんですけど、実際は、それどころじゃないんです。

 

 

    ー つづく ー

 

 

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