天使のパン屋さん
小学校の3年生で、転校して来た男の子が、私のことを、天使だって、思い込んでしまったんです。
私は、高校を卒業したあと、栄養士と調理師の免許が取れる、短大に進みました。
そして、私が短大を卒業したとき、彼は、私のために、かわいいパン屋を開いてくれたんです。
彼は、働いて、服なんかも買わないで、お金を貯めてくれていたんです。
夏でも、ボロボロのトレーナーでした。(でも、なぜか、それが似合って、格好良かったんですけどね)
もちろん、私も、冬には、彼のために、毛糸のセーターや、マフラーを編んであげました。
それらを、彼は、ものすごく喜んでくれたんです。
もっとも、彼は、私が何をしても、喜ぶんです。
褒(ほ)めるんです。
私を見るたび、「神様の作った芸術品だ」って、言うんです。
人に聞かれるのも、かまわないで、言うので、それだけが、私の悩みです。
人前でも、私と、目が合うたびに、満面の笑みなんですよ。
何度でも、何度でも、満面の笑みを、繰り返すんです。
私の方が、「なに? なに?」って、つい、聞いてしまいます。
何を笑っているの?ってくらい、笑っているからです。
「なんて、かわいいんだろ・・・・・・
素晴らしいよ。 奇跡だよ。
神様の作った芸術品だよ」
ですから、人前では、やめてよって、お願いするんです。
もっとも、私たちのパン屋さんは、とても小さいんですよ。
売り場は、ガラスのショーケースの中に、パンを並べて、お客さんが3人、入ったら、もう満員です。(2人でも、満員かも・・・・・)
彼は、店の奥の調理場で、パンを焼いています。
でも、彼のこだわりがすごくて、手作りの天然酵母に、国産の小麦粉、天日塩、きび砂糖、バターやオリーブオイルで、パンを焼くんです。(最近の国産の小麦粉は、進化しているらしいです。 彼が言うには、以前は、国産の小麦粉で、パンを焼くと、うどんの味がしたんだそうです)
それで、店は小さいんですけど、行列が絶えないんです。(行列ができるのは、店の中に、2,3人しか入れないってこともあるんですけどね。汗)
ちなみに、店の名前は、彼がつけたんですけど、『 天使のパン屋さん 』なんです。
ー つづく ー
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