僕と、結婚してくれますか?

 

 

 

 小学校の3年生で、転校して来た男の子が、私のことを、天使だって、思い込んじゃったんです。

 

 

 

 女の子たちに、からかわれたあと、(もっとも、彼は、からかわれたって、思っていないんですけど)、私と、真面目に、結婚するって、決めているんです。

 

 

 それで、私に、聞きに来ました。

 

 

 「僕と、結婚してくれますか?

 

 

 でも、まだ中学生です。

 

 

 「僕、天使さんのお仕事、手伝いますから

 

 

 「天使じゃないんだから、天使の仕事なんて、するわけないでしょ?

 

 

 「だったら、どんな仕事するんですか?

 

 

  私、パンが大好きなんです。

 

 

  それで、つい、言っちゃったんです。

 

 

 「かわいいパン屋さん、やりたい

 

 

  それから、彼は、学校の勉強は、しなくなって、パンの勉強を始めるんです。

 

 

  高校にも進学しないで、パン屋さんに、勤めてしまいます。

 

 

  パン種(だね)も、干し葡萄とか、リンゴとかから、発酵させて、作ります。

 

 

  パン種ができると、私のところへ持って来ます。

 

 

  そして、一緒に、パンを焼くんです。

 

 

  手作りのパン種(だね)で、作るパンは、スーパーマーケットで売っているドライイーストが1時間くらいなのに、くらべて、6時間とか、8時間とか、発酵に時間がかかります。

 

 

  でも、発酵するのが、家中に、甘い香りが立ちこめて、まるで天国にいるような気持ちになります。

 

 

  小麦粉を捏(こ)ねるのも、手作業ですから、私たち、粉だらけになっているんです。

 

 

  でも、それらが、楽しくて、幸せで、たまらないんです。

 

 

  一度、彼が、ヨーグルトを発酵させて、パン種(だね)を作って、持ってきたことがあるんですけど、その日は気温が高くて、持ってくる間に、発酵が進み過ぎて、私の家で、ヨーグルト種(だね)のビンの蓋を開けたとたん、バン!って爆発して、部屋中に、ヨーグルトが飛び散りました。

 

 

      

 

 

  彼の顔も、ヨーグルトだらけで、私は、笑い転げました。

 

 

  そんなふうに、彼の仕事が休みの日には、私も、学校を休んで(私は高校生でした)、朝から、一日中、私たちは、パンを焼いていたんです。

 

 

         ー つづく ー

 

 

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