3話 鬼の目にも涙
ここまでのあらすじ
僕は、鬼の世界に、紛(まぎ)れ込んでしまいました。
角(つの)がないのが見つかると、人間だとバレてしまいます。
人間だとバレると、きっと食べられてしまうんです。
虎の毛皮を着た鬼の女が、頭に、長い角(つの)を生やして、僕を追い駆けてきます。
僕は、両手で、頭の上に、三角形を作って、逃げています。
角(つの)があるように見せるためです。
でも、そのせいで、うまく走れないんです。
鬼の女は、若くて、スタイルがよくて、足が速いです。
僕に、迫っています。
「殿! 待ちなさいってば!」
「僕、殿じゃないです! 人違い、あっ、鬼違いです!」
「殿じゃなかったら、なんで逃げるのよ?
逃げるのは、浮気している証拠よ!」
「僕は、殿でもないし、浮気もしてないです!」
「だったら、もっと、逃げる必要ないでしょ?」
僕が逃げているのは、人間だとバレたら、食べられてしまうからです。
「だいたい、なんで、頭の上で、手を合わせて、逃げているのよ?
謝ってるってことでしょ?」
確かに、そんなふうに見えます。
「 それとも・・・・・・わかった! キスマークを隠しているんだ?」
「頭に、キスマークなんて、つかないですよ!」
「女に、囓(かじ)られたとか?」
鬼の女なら、ありそうです。
「血だらけなんでしょ?」
「血なんて、出てないですよ!」
「だったら、見せなさいよ!」
そこで、僕は、つかまってしまったんです。
女の鬼は、怖ろしいくらい美しいです。
僕の頭から、手をどかそうとします。
もちろん、僕も、必死です。
それで、殿のフリをすることにしたんです。
城では、鬼たちが、僕に、平伏(ひれふ)していたからです。
それで、鬼の女に、怒鳴ってみたんです。
「おい! いいかげんにしろ!
食っちまうぞ!」
すると、鬼の女は、雷に打たれたように、震え上がって、平伏したんです。
震えながら、泣きだしました。
「・・・だって、もう、浮気はしないって、言ったじゃない?
私のこと、大切にするって、言ってくれたでしょ?」
僕は、鬼の目にも涙って、本当にあるんだって、驚いていたんです。
ー つづく ー

