5話 好きって、言って!
ここまでのあらすじ
カナは、生まれたときから、体重がなかった。
中学生のとき、初恋の男の子から、好きだと言われて、浮き上がって、教室の天井に貼りついてしまった。
男の子は、カナをたすけようとして、うっかり、窓から、ふたりで、空へと、飛び出してしまった。
ミツルが、後ろから、わたしのおしりに、しがみついているんです。
腕は、腰に、まわしているんですけど、上昇しているから、身体の重みで、顔が、おしりなんです。
「カナ? どこまで飛ぶんだ?」
ミツルが、しがみついたまま、叫んでいます。
「わかんないよ! わたしが、飛んでるんじゃないもん!」
わたしにしてみれば、初恋の男の子に、しがみつかれているんです。 それも、おしりに、です。 はずかしくって、しかたないです。
飛び方だって、おしりが、くすぐったくて、身悶(みもだ)えるような飛び方です。 旋回(せんかい)したり、ジグザグです。
それで、さらに、ミツルが、わたしのおしりに、顔をうずめてしまうんです。 振り落とされそうになるからです。
「・・・体重が増えたんじゃなかったのか!」
「おしりで、叫ばないで! くすぐったい!」
「叫ばなきゃ、聞こえないだろ!」
風を切って、上昇しているからです。 もう、かなり、高いです。
「なんで飛んでるだよ?」
「ミツルが、へんなこと、言うから・・・・・」
「オレが?
好きって、言っただけだろ?」
まるで、ロケットみたいに、急上昇します。
体操着が脱げて、ショートパンツごと、ミツルが落下しました。
ショートパンツをつかんだまま落下してゆくんです。
即死する高さです。
「カナ!」
そのときです、わたしは、急降下しはじめました。
ミツルを死なせたくなかったからです。
わたしから、ミツルに抱きつきました。
ところが、急降下がとまらないんです。
「カナ! 落ちてるよ!」
「好きって、言って!」
「好きだよ! ずっと好きだったんだ!」
地面すれすれで、急降下が、とまりました。
ところが、また上昇しはじめたんです。
でも、今度は、ちゃんと、抱き合っています。
ミツルは、わたしのショートパンツをつかんだままです。 ショートパンツが、バタバタと羽ばたいています。
「・・・・カナ、オレとつきあってくれないか?」
わたしと、ミツルは、また急上昇して、ショートパンツを羽ばたかせながら、白い雲の中へと、飛び込んで行ったんです。
ー つづく ー

