1話 しゃぼん玉みたい
わたしには、生まれたときから、体重がありません。
病院でも、不思議がって、何度も、計ってくれましたが、目盛りはゼロでした。
ただ、どんなに調べても、身体に、異常は見つからなかったんです。
異常は、空気みたいに軽いってだけです。
ママも、パパも、わたしを抱いても、風船みたいに軽いから、ほんとうに、わが子がいるのか、どうか、不安になったらしいです。
それで、じーっと見つめていたそうです。
目をはなすと、消えてなくなりそうな気がしたんだそうです。
歩けるようになると、外へ出るときには、重りをつけられました。 そうしないと、風に飛ばされてしまうからです。
でも、わたしは、重りは嫌いで、家の中では、いつも、しゃぼん玉みたいに浮いています。
家の中での移動は、床や、壁を、蹴って、ふわふわと、浮いて行くんです。
まるで、宇宙空間にいる、宇宙飛行士みたいです。
小学校へ通うようになると、風の強い日は、休まされました。
でも、突然の風っていうのがあって、重りをはずしていたりすると、飛ばされてしまいます。
体育の授業のときも、重りをはずしていたら、突風に飛ばされて、そのときは、クラス全員で、探しまわってくれました。
ただ、そのとき、初めて、空を飛んで、気持ちよかったです。
家の中では、いつも飛んでいたので、飛ぶことに、不安はありませんでした。
むしろ、天井も、壁も、ない空は、自由そのものでした。
こんなに空は、自由なのに、どうして、形とか、重さの中で、生きていかなければいけないのかって、思いました。
それ以来、わざと、重りをはずすんです。
風に飛ばされるのが、楽しみになったんです。
きっと、大きな波を待つサーファーの気持ちです。
ただ、重りをはずしているのが、見つかると、ママに、ひどく、叱られるんです。
ー つづく ー

