最終話 彼と会えますように
ここまでのあらすじ
埼玉県秩父市にある三峯神社にお参りしてから、妙(たえ)は、毎晩のように、同じ男の人の夢を見る。
ところが、願ったことが叶ってから、彼の夢が見れなくなった。
父と母とが、仲良くなって、私の願いが叶(かな)ったせいなのか、それきり、彼の夢を見ません。
それで、今度は、彼と会えるって、思うことにしたんです。
夜、布団に入ると、彼がバイクで、迎えに来てくれるのを、思います。
ところが、バイクの後ろに、跨(また)がって、彼の背中に、しがみついて、走りだすと、眠ってしまうんです。
そして、目を開けると、朝です。
空(から)の財布のときは、店が暇だったので、練習ができたんですけど、今は、次から、次へと、お客さんが来てくれます。
仕方ないので、本当に、三峯神社に行くことにしました。
彼と会えますようにと、お願いしに行ったんです。
そして、帰り、本当に、峠道(とうげみち)を、歩きました。
夢では、何十回と歩いた峠道ですけど、現実では、歩いたことはありません。
夢でも、すごい道でしたけど、実際に、歩いてみると、とんでもないです。
山々を見渡しながら、下りるんです。
バイクのエンジン音がするたびに、振り返りますけど、みんな、素通(すどお)りして行きます。
女の子が、ひとりで、歩いて、振り返っているのに、素通りなんです。(彼じゃないから、いいんですけど・・・・・)
やがて、本当に、日が暮れだして、下りて来るバイクも、クルマも、なくなりました。
外灯がないので、真っ暗になりそうなのは、夢と、同じです。
街までは、まだ何十kmか、ありそうです。
自分でも、バカだと、思います。
現実は、夢のようには、いきません。
携帯電話を持っていないので、助けを呼ぶこともできません。(友だちがいないので、携帯電話なんて、必要ないんです)
私は、泣き出しました。
すると、そこへ、聞き覚えのあるエンジン音が、聞こえてきたんです。
夕焼けの残り火に燃える山の中、夕日のようなヘッドライトを輝かせながら、1台のバイクが下りて来ました。
私の前で、バイクを止めると、ヘルメットを脱ぎました。
彼です。
「・・・・・・・・なんで、こんなところ、歩いてるんですか?」
私は、思わず、彼に、抱きついてしまいました。
彼にしてみれば、知らない女の子に、いきなり、抱きつかれて、びっくりしたはずです。
「・・・・・・私、あなたの夢を、何十回も、見てきたんです」
「何十回も?
予知夢ですか?」
「よちむ?」
「未来に起こることを、見る夢のことです」
「だったら、これから、起こること、私、わかります」
彼が、ちょっと、心配そうです。
「どんなことが起こるんですか?」
「あなたが、私を、バイクに乗せてくれて、家まで、送ってくれるんです」
彼が、笑ってくれました。
「いいですよ。
街まで下りたら、あなたのヘルメットを買いますから、それまで、僕のを、被(かぶ)ってください」
私には、そのヘルメットが、ピンク色だってことも、わかっていたんです。(笑)
ー おわり ー



