4話 お化け屋敷みたいなんです
ここまでのあらすじ
妙(たえ)は、埼玉県秩父市の三峯神社にお参りしてから、同じ男の人の夢を見るようになった。
妙が、三峯神社まで、お願いしに行ったのは、父と母が喧嘩ばかりするからだった。
私の父と母は、畑で、野菜を作っているんですけど、それが、あんまり、売れません。
野菜が売れないせいで、お金がないので、それで、喧嘩ばかりしています。
畑の前の店で、野菜を売っているんですけど、売れないのは、たぶん、うちの店が、掘っ立て小屋だからです。
そのうえ、掘っ立て小屋には、蔓性(つるせい)の植物が生い茂って、夏は涼しいんですけど、でも、お化け屋敷みたいなんです。
ツタみたいに、お洒落じゃなくて、マタタビの一種なので、オドロオドロしているせいです。
そのうえ、畑の向こうには、精神病院があって、隣りには、介護老人ホームがあって、斜め向かいには、消防署があります。 年中、サイレンの音が鳴り響きます。
さらに、精神病院には、通院している患者さんもいるので、店番(みせばん)している私の前を、救急車のサイレンよりも、大きな声で、大笑いして、患者さんが通ったりします。
だったら、スーパーマーケットとかに、卸(おろ)したらいいと思うかもしれませんが、うちの畑は、そんなに大きくないので、卸(おろ)し価格では、やっていけないとのことです。
私は、小学生の頃から、そのお化け屋敷みたいな店で、店番をしています。
いつの間にか、19歳になって、どこかに就職すればよかったのに、喧嘩ばかりしている父と母が心配で、つい、就職しそびれました。
父と母は、夕方には仕事を終えて、家に帰るからです。
それから、父は、お酒を飲み始めます。
おつまみは、売れ残った野菜です。 それが、父には、気に食わないんです。 飲めば、飲むほど、腹を立てます。
母にしてみれば、お金もないのに、お酒ばかり飲む父が、気に食わないんです。
それで、毎晩のように、喧嘩になります。
その喧嘩をとめるのが、私の仕事です。
ですから私は、父と母に、就職したようなものなんです。
ー つづく ー

