3話 Oneness(ワンネス)
小学生のときでした。
休み時間に、国語の教科書を、読んでいたんです。
松尾芭蕉の、『 ふる池や かわず飛び込む 水の音 』 という俳句が、ありました。
蛙(かわず)が、古池に、飛び込んで、水の音・・・・・・・・
そのとき、教室が、溶け出したんです。
ちょうど、コーヒーに、ミルクを入れて、コーヒーと、ミルクとが、溶け合ってゆく感じです。
天井も、壁も、机も、椅子も、そして、子供たちも、自分も、ひとつに、溶けて行ったんです。
こわくなって、教室を、飛び出しました。
廊下も、溶けていましたから、ちゃんと、歩けません。
あっちへ、ふらふら、こっちへ、ふらふら・・・・・・・
逃げようとしたんです。
溶けてしまうのが、こわかった。
わけが、わからなかったんです。
今なら、Oneness(ワンネス)という言葉もありますから、かえって、喜んだかもしれません。
もし、あのとき、喜んで、溶けていたら、何年もあとになって、苦しい思いをして、溶ける必要はなかったかもしれません。
現実って、固い、と思っていますが、固いと、思っているから、固いのかもしれないです。
だって、人は、自分の思いしか、経験できません。
自分の思いを離れて、現実は、ありません。
客観的な現実があると、思っているのも、思いです。
むしろ、思いだけが、現実です。
現実って、そう、思っているってだけなんです。
ー つづく ー

