2話 弾き語り
「僕たち、弾き語りをしているんですけど、1曲、どうですか?」
振り向くと、真っ黒い服を着た男の子たち、3人が、1人はギターを持って、立っている。
高校生くらいだ。
顔まで、真っ黒に日焼けしている。
「いらないわ」
断ったのに、なぜか、3人は喜んでいる。
ギターを弾(ひ)き始めた。
「頼んでないわ。 断ったのよ」
すると、3人で、歌い出した。
「あ~♪ あ~♪
断ったのに~♪ 断ったのに~♪」
「あなたたち、私を、馬鹿にしてるの?」
「馬鹿に~♪ 馬鹿に~♪ してるの~♪」
「やめてよ!
あっちへ行って!」
「やめて♪ やめて♪ やめて~♪
あっち♪ あっち♪ 行って~♪」
私は、腹が立って、やめさせようとして、ギターを取り上げた。
すると、3人は、真っ黒い、大きな翼を広げると、羽ばたいた。
飛んで、空中を、舞っている。
「やめて♪ やめて♪ やめて~♪
あっち♪ あっち♪ 行って~♪」
私は、宙を舞っている3人を、ギターで、叩き落とそうとした。
ギターのネックをつかんで、殴ろうとしたら、ドアが開いた。
ギターだと、思っていたけど、クルマだった。
私は、クルマに乗り込むと、3人、目がけて、急発進させた。
3人は、宙を舞いながら、大笑いしている。
「やめて♪ やめて♪ やめて~♪
あっち♪ あっち♪ 行って~♪」
笑いながら、歌っている。
さらに、歌いながら、桜を越えて、舞っている。
私は、悔しくて、クルマで、追いかけた。
ところが、エンジン音が、ギターの音色だ。
激しく弦(げん)を掻(か)き鳴らして、まるで、私のことを、弾(ひ)いているかのようだ。
悔しくて、ムキになっている私を、だ。
あの3人も、私のことを、歌っていたのだ。
ー つづく ー
