1話 金色の樹と、銀色の樹

 

 

 

   茶色い、縞(しま)模様のネコが、空を飛んで行く。

 

 

   私は、大事なものを、失なってしまいそうで、焦(あせ)って、ネコを追いかけた。

 

 

   ネコは、金色の樹と、銀色の樹とが、混じり合った森の中へと入ってしまった。

 

 

   それで、私も、森に入った。

 

 

   金色の樹は、月のように光って、銀色の樹は、太陽のように光っている。

 

 

      

 

 

   それらは、まるで、夜と、昼とを、繰り返しているかのようだ。

 

 

   落ち葉が、たくさん、落ちていて、よく見ると、写真だった。 

 

 

   落ち葉の形をした写真だ。

 

 

   一枚、拾ってみたら、仔ネコが映っている。

 

 

   ほかの落ち葉を拾ってみたら、すべり台が映っていた。

 

  

   見たことがあるような街の風景も、ある。

 

 

   これらの写真が、自分の記憶のような気もする。

 

 

   ところが、なぜか、自分が、誰なのかが、わからない。

 

 

   自分の姿が映っている写真を探してみるが、人の姿があっても、どれが、自分なのかが、わからない。

 

 

   森の中だから、鏡もない。

 

 

   両手で、自分の顔を触ってみようとした。

 

 

  「?????????

 

 

  なんと、顔がない。

 

 

  頭ごと、ない。

 

 

  「あっ、そうだわ!

 

 

  あの飛んで行ったネコが、私の頭だったんだわ

 

 

  最初、突然、ネコに、飛びかかられたと、思って、びっくりした。

 

 

  悲鳴をあげて、肩をすくめたほどだ。

 

 

  この肩から、ジャンプして、そのまま、飛んで行ってしまった。

 


  あのネコが、自分の頭だったことは、間違いなかった。

 

 

  「早く、あのネコを捕まえないと、私は、頭が無いままで、街へと戻らなくてはならないわ。

 

 

  頭、どうしたの?って、聞かれたら、困るわ

 

 

  ただ、その困惑とは裏腹(うらはら)に、肩から、頭が、逃げたせいで、ほっとするほど、軽い。

 

 

  頭がないって、こんなにも、ほっとするものだとは、知らなかった。

 

 

 

    ー つづく ー