63話 やがては、あなたも、立派な石となる
剛(竹四郎)は、ダイヤモンドの私からは、逃げられないと、観念(かんねん)したようです。
私は、簡単に、あばら骨をへし折ることができるくらい力が強いのです。
もっとも、普通なら、巨大なダイヤモンドに、抱きつかれたなら、喜んだはずです。 それだけで、億万長者なのですから。
でも、剛(竹四郎)には、あばら骨を折られた記憶があるのです。
「本当の俺の心って、何だよ?
この心は、本当じゃないのかよ?」
「たとえば、これが夢だとして、夢の中のあなたが、「本当の俺の心って、何だよ?」って、聞いたとします。
夢の中の私は、どう答えると思いますか?」
「・・・・・・夢なんて、いつも、わけがわからないことばっかりだよ。
どう答えるかなんて、わかるわけがないだろ?」
「石の女の胸で、火傷(やけど)をしたり、山犬たちに食われたりですか?」
剛(竹四郎)にとっては、前世の記憶です。 本当にあったことです。
「・・・・・俺の夢が、現実だったのなら、俺は、また、いつか、遠い未来で、ダイヤモンドのあんたに、抱きつかれた夢を見るのか?」
「心なのですよ。
すべては、心なのです。
心ではないと、思ったとしても、そう思っているのも、心です。
ですから、すべてを受け入れたらいいのです。
受け入れるから、受け入れられるのです。
拒絶するから、拒絶されるのです」
「俺が拒絶したって、あんたは、抱きついているじゃないか?」
「あなたがいるのは、心の中なのですよ。
あなたは、愛されているのです。
愛されていないと、思うことが、拒絶なのです。
それで、苦しむのです。
でも、それでさえ、心なのです」
「あんたを受け入れたら、何が変わるんだよ?」
「受け入れれば、受け入れられます。
私を抱いてみれば、わかります」
剛(竹四郎)は、ためらっていました。
ところが、潮風に、ためらう息を、さらわれて、剛(竹四郎)は、海のようになって、私を、揺らすほど、抱いたのです。
「・・・・・・本当に、俺は、愛されているのか?
だったら、なぜ、こんなに不安なんだ?」
私は、そっと、あばら骨をへし折らないように、抱きしめました。
「あなたが、愛されたいと願うから、この世界だって、愛されたいと、願うのです。
地球だって、愛されたいと願っているのです。
まず、私たちの赤子を育てましょう。
私は、母となるのです。
そして、あなたは、父となるのです。
そうすれば、やがては、あなたも、立派な石となれるのです」
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夢からの帰り道
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