全身に火傷を負った男は何者なのか?「イングリッシュ・ペイシェント」を観て | パンクフロイドのブログ

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こうのすシネマ

午前十時の映画祭 より

 

製作:アメリカ

監督・脚本:アンソニー・ミンゲラ

原作:マイケル・オンダーチェ

撮影:ジョン・シール

美術:スチュワート・クレイグ

音楽:ガブリエル・ヤーレ

出演:レイフ・ファインズ クリスティン・スコット・トーマス

         ジュリエット・ビノシュ ウィレム・デフォー

1997年4月26日公開

 

1944年、北イタリア。砂漠の飛行機事故で全身に火傷を負い、記憶の大半を失って生死をさまよう男が野戦病院に運び込まれました。恋人も親友も亡くした看護婦のハナ(ジュリエット・ビノシュ)は移動する部隊を離れて、爆撃で廃墟と化した修道院に患者を運び込み、看護を続けます。男は断片的な記憶を元に、彼に起きたことをハナに語りかけます。男の名はアルマシー(レイフ・ファインズ)と言い、ハンガリーの名門の家柄の出身でした。彼は英国地理学協会に加わり、アフリカのサハラ砂漠で地図作りに没頭していました。

 

1938年、ジェフリー・クリフトン(コリン・ファース)は協会のスポンサーとして妻のキャサリン(クリスティン・スコット=トーマス)と共に参加していました。彼女は夫が英国情報部のカイロに戻った後も、気丈にも砂漠に残ってアルマシーたちと行動を共にします。そんなキャサリンにアルマシーは心を奪われます。

 

猛烈な砂嵐に見舞われた一夜、二人はジープの中に閉じ込められ、命からがら生き延びたことにより一層親密になり、カイロに戻ってから二人はアルマシーの宿舎で結ばれます。しかし、キャサリンは密会を重ねながらも、アルマシーを愛する喜びと夫に対する罪悪感の狭間で揺れます。やがて、二人の関係はジェフリーに知れるところとなります。

 

アルマシーが身の上話をしている最中、修道院にカナダ人のカラヴァッジョ(ウィレム・デフォー)が現れます。彼はハナの知り合いの使いだと名乗りますが、アルマシーに憎悪の目を向け、そのまま居ついてしまいます。さらに、爆弾処理専門のインド人中尉キップ(ナヴィーン・アンドリュース)が修道院の中庭にテントを張って住み始め、ハナとキップの間に愛が芽生えます。やがて終戦の日を迎えるのですが・・・。

 

本作は第二次大戦末期に野戦病院に運び込まれた男を従軍看護婦が廃墟と化した教会で看護する物語と、地図製作に携わる男と人妻の恋愛話が交互に描かれる構成になっています。現在進行形で展開される1944年の物語は、序盤では焼けただれた男の正体がなかなか掴めないため、意外とミステリーの度合いが強いです。しかも、途中から男に恨みを抱くカラヴァッジョが登場するので、彼にどんな仕打ちをしたのかにも興味が湧いてきます。回想場面を小出しにすることで、ミステリー色が濃くなる反面、最初から冒険ロマンスに一貫したほうが、メロドラマとしての醍醐味を堪能できたのでは?と思わないでもありません。

 

過去に遡る物語ではアルマシーとキャサリンの二人を中心に話が運んでいきます。文化の異なる異国の地を舞台にしている上に、人目を忍ぶ恋が情炎に身を焦がすものとなります。この二人に比べると、ハナの存在は一歩引いた立ち位置になるのですが、彼女は親しい仲になった人物がいずれも亡くなるという疫病神のような役柄になっていて、重要な役割を果たしています。

 

ハナが隊から離れてアルマシーを看取ろうとするのも、看護師としての使命と言うよりは、直前に大切な人を失ったことへの喪失感から、自棄を起こした選択のようにも映ります。或いは身近に居る者たちが次々と死ぬことによって、健常者である兵隊と行動を共にするよりは、死が迫った者の傍に居たほうが、連合軍のリスクを回避できる彼女なりの判断だったようにも思えます。

 

ハナはアルマシーの看護の最中にも、爆弾処理に長けたインド人の中尉キップ(ナヴィーン・アンドリュース)といい仲になり、終盤にはハラハラさせる展開もあります。ここはちょっと一ひねり加えた演出があって、やはり彼女が“間接的に”疫病神であったことが証明されます。

 

映像的には、北イタリアを舞台にした現在パートより、アフリカを舞台にした過去パートに魅かれます。絵筆を走らせる描写から幾何学模様の砂漠に切り替わる冒頭などは溜息が出るほど。スケールの大きさが感じられ、改めてスクリーンで観るべき映画だと思いました。