二人の女に愛されたスパイの顛末は?「女間諜 暁の挑戦」を観て | パンクフロイドのブログ

パンクフロイドのブログ

私たちは何度でも立ち上がってきた。
ともに苦難を乗り越えよう!

シネマヴェーラ渋谷

玉石混淆!?秘宝発掘!新東宝のディープな世界 アンコール&リクエスト より

 

製作:新東宝

監督:土居通芳

脚本:杉本彰

原作:楳本捨三

撮影:森田守

美術:小汲明

音楽:江口夜詩

出演:高倉みゆき 天知茂 三原葉子 竜崎一郎 岬洋二 江見俊太郎 高松政雄

1959年2月3日公開

 

 

日支事変の最中、鈴木元陸軍中尉は二年間の訓練を終えて、岸井隆(天知茂)と名を変えて、王と名乗る河石大佐(竜崎一郎)、三津井雪(高倉みゆき)らの“むらさき機関”に配属されます。岸井の任務は重慶スパイの首領と目される京劇の人気スター林晃彩(三原葉子)に接近し、彼女の身辺を探ることでした。

 

岸井は晃彩と親しくなり、彼女のパーティーに招待されます。その席で岸井は憲兵隊員に敵側の工作員と誤解され、連行された末に拷問を受ける羽目になります。しかし、岸井はスパイ活動のために、味方に身の潔白を証明することもできません。ようやく釈放された岸井は、傷だらけの体で晃彩の許を訪れます。岸井の状態を目にした晃彩は警戒を緩め、やがて二人は愛し合うようになります。

 

ある日、晃彩をつけた岸井は敵のアジトを発見し、作戦計画書を奪うために高木参謀(真木裕)を襲う計画を耳にします。岸井はアジトを離れ、雪に連絡を取ろうとしますが、彼女がなかなか電話に出ないうちに、晃彩がアジトから外に出てくる姿を目に留めます。ようやく電話が繋がったものの、岸井は怪しまれぬために晃彩の自宅に戻らねばならず、肝腎の情報を雪に伝えることができませんでした。

 

そのため高木参謀は襲撃され、計画書も奪われ、軍は計画の変更を余儀なくされます。王こと河石大佐は雪に岸井の処置を命じましたが、密かに岸井を愛する雪は今一度のチャンスを岸井に与えます。岸井は雪の恩情に応えるため、ふたたびアジトに忍び込み多田大将(高松政雄)暗殺の計画を得ます。

 

ところが晃彩からもらったライターを落しため、敵に裏をかかれて、憲兵が着いた時にはアジトはもぬけの殻で、仕掛けられた時限爆弾によって多大な犠牲を払ってしまいます。この結果、河石大佐は益々スパイ容疑の濃くなった岸井を抹殺するよう雪に命じます。雪は岸井に逃亡を勧めるのに対し、岸井は晃彩らに多田大将が乗る列車の通過時間の情報を流して、一味が集結したところを襲って全滅させることを提言するのですが・・・。

 

スパイ映画でありながら、メロドラマ色の濃い作品です。題名からは高倉みゆきが主役であるかのような印象を与えますが、実質天知茂が主役の映画。彼女は敵に潜入する天知を補佐する役柄に過ぎません。ただし、地味な役割ながら恋愛劇においては、控えめな彼女の振る舞いが適度に効いています。

 

二人の女から好意を持たれる天知茂は、諜報員の役はうってつけと言えます。悪役を演じる際に天知が醸し出す冷酷さが、スパイ役には非常に相性が良いからです。また、スパイの身でありながら敵方の首領に惚れるという禁断の愛も、「東海道四谷怪談」における伊右衛門を演じた際の物事や相手に流れやすい人間の弱さを再現しているとも思えます。

 

雪は岸井の上官であることから、部下に恋心を打ち明けられない立場にいます。軍の上層部は岸井が晃彩からなかなか情報を引き出せないため、彼へのスパイ疑惑が持ち上がり、雪は何とかその疑惑を晴らそうと奔走します。これは部下を庇うというより、恋人を助けたい領域に入っています。

 

一方、晃彩は岸井をスパイと疑いつつ、彼の魅力にノックアウトされます。岸井はふとしたことで憲兵の怒りを買い、味方の拷問を受け、釈放されたその足で晃彩の許に転がり込み、彼女の手厚い看護を受けます。三原葉子から口移しで水を飲まされるなんて、羨ましすぎるぞ(笑)。

 

拷問による傷跡から、岸井への容疑は一旦晴れたかに見えましたが、用心深い仲間の謝天成(江見俊太郎)はスパイの疑いを払拭しておらず、晃彩に岸井への監視を指示します。岸井は危険を冒して敵のアジトに忍び込み、貴重な情報を得ます。ところが、タイミングを逸して雪に連絡することができず、味方から逆スパイ容疑を受ける負の連鎖に陥ります。そして度重なる失敗により、とうとう雪に岸井を始末する命令が下されます。

 

岸井は雪に殺されるならば本望と覚悟を決めます。しかし、彼女は自分の手で岸井を片づけることはできず、岸井の捨て身の提案を受け入れます。一方、晃彩も岸井の身に危険が及ぶのを見過ごせず、彼と一緒に逃げる算段をします。この結末は言わぬが花ですが、“失恋”した形になった雪が、二人を添い遂げさせたかった心情が滲み出る行為に、日本女性の優しさと繊細さが表れていました。