西村潔の快心作 「白昼の襲撃」を観て | パンクフロイドのブログ

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池袋 新文芸坐

絶対に観てほしい活劇 電光石火の24本 より

 

 

製作:東宝

監督:西村潔

脚本:白坂依志夫

撮影:黒田徳三

美術:小島基司

音楽:日野皓正

出演:黒沢年男 高橋紀子 緑魔子 岸田森 出情児 石井くに子 殿山泰司

        桑山正一 伊藤久哉 若宮大祐 北浦昭義 マンモス鈴木

1970年2月8日公開

 

運送屋の運転手の修(黒沢年男)は、仕事中にユリ子(高橋紀子)を見かけ、彼女をモノにすべく、集金した一方円をポケットに突込むと、ユリ子の踊るゴーゴーハウスに出向きます。修はそこで少年院時代の仲間の佐知男(出情児)と再会します。佐知男は兄貴分の修と再会したことを喜び、彼に一丁の拳銃を進呈します。

 

ある日、修、佐知男、ユリ子の三人は海へ出かけます。修と佐知男はイケ好かない大学生の態度に腹を立て、彼のスポーツ・カーを盗もうとします。ところが、その現場に踏み込まれた末に、修はスパナでしたたかに殴られます。修は相手と揉み合う内に、弾みで彼の持っていた拳銃が暴発し、大学生二人を殺してしまいます。修と佐知男が逃走中、鳴海(岸田森)が二人を車で拾い、足に重傷を負った修は彼の家に匿われます。

 

やがて傷の癒えた修は、鳴海が経営するクラブでバーテンダーとして働き始めます。鳴海は現在服役中の佐伯(殿山泰司)から恩を受けたことで、やくざの道に入りましたが、佐伯の地位を狙う林(伊藤久哉)から、親分殺しを強いられます。佐伯の出所の日、鳴海は佐伯を殺すと見せかけ、林を射殺します。だが、その鳴海も佐伯に内緒でテロリスト集団に、組織の金を横流ししていたことがバレて、死体となって発見されます。

 

佐伯に気に入られた修は、鳴海の後釜としてクラブの経営と外国人向けの売春業を任されます。ユリ子もクラブのママに収まり、辣腕を振るいます。そんな折、大学生射殺事件の犯人を追う松本刑事(北浦昭義)が、修に目をつけます。警察の動向に気づいた修は、佐伯が自宅に隠してある多額の現金を奪って、佐知男と彼の友人でヨットを持つジョニー(レックス・ヒューストン)と共に、国外逃亡を企てるのですが・・・。

 

「西村潔、やりやがった!」と快哉をあげたくなるほど、快心の一作です。アクション映画であるにも関わらず、アメリカンニューシネマとの連動も感じさせます。親のスネを齧りながら大学に通うボンボンへの反感をきっかけに、警察に追われる身となった若者が、破滅へと突き進む痛ましさが痛いほど迫って来ます。こういう役を演じさせると、黒沢年男は嵌ります。

 

主人公が世話になるやくざの過去が、学生運動に関わった挙句、リンチを受けて命からがら逃げ延びたと言うのも、映画の公開から2年経って、あさま山荘事件が起きた事を考えると、時代を先取りしていたと言えますね。修がやくざの世界に身を投じ、内部抗争によってのし上がっていく話の一方で、彼を巡りゲイと不良娘が張り合う三角関係の様相も呈してきます。

 

ノンケの修は弟分と体の関係にまで発展することはありませんが、それでも多感な時期に同じ少年院に入っていたことから、精神的な結びつきは非常に強いです。ユリ子から「出て行ってもらってよ」と強く言われても、見捨てることはできません。ユリ子の言い分にも一理あり、いくら深い関係になることはないと判っていても、お邪魔虫がいては、恋人との甘い時間を共有できません。その結果、自然とユリ子は佐知男に辛く当たることになってしまいます。ユリ子を演じる高橋紀子は、「ブラック・コメディ ああ!馬鹿」を観て以来のお気に入り女優。多少嫌な感じの役柄でも、彼女ならば許せます(笑)。

 

佐知男には外国人の友人ジョニーがいて、そちらも睡眠薬を常用している恋人持ち。ある種、爪はじきの状態に置かれてはいるものの、ユリ子のように恋敵を排除しようとはせず、恋焦がれる相手の近くにいるだけで満足のようにも見え、その節度を守る姿に俄然好感度がUP。出情児による繊細な若者像が見ものです。

 

修は義理堅い性格で、裏切ることを極端に嫌います。それは父親が女狂いをして母親を泣かせた過去に由来しており、佐知男と離れられない足枷にも繋がっています。また、世話になった佐伯を殺そうとする鳴海に反発しながらも、敢えて行動を共にするのも、鳴海への恩義がより勝っているからに他なりません。尤も鳴海に関しては、別の意味で裏切られるのですが・・・。修の面倒を見る鳴海役の岸田森は、心意気と計算高さの入り混じるやくざを好演。鳴海の妻(情婦かも)に扮するのは緑魔子ですが、この作品ではあまり見せ場がないのが残念でした。それにしても、日野皓正クインテットによるジャズの演奏には痺れました。

 

スネイク・ヒップ 日野皓正クインテット