フィルム・ノワールの世界⑫ 「明日に別れの接吻を」を観て | パンクフロイドのブログ

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シネマヴェーラ渋谷

フィルム・ノワールの世界Ⅱ より

 

 

製作年:1950年

製作:アメリカ

監督:ゴードン・ダグラス

脚本:ハリー・ブラウン

原作:ホレース・マッコイ

撮影:ペヴァレル・マーレイ

美術:ウィアード・イーネン

音楽:カーメン・ドラゴン

出演:ジェームズ・キャグニー バーバラ・ペイトン ウォード・ボンド

        ルーサー・アドラー ネヴィル・ブランド

1954年10月9日公開

 

服役中の凶悪犯ラルフ・コッター(ジェームズ・キャグニー)とカールトンは、看守のコベットを買収して脱走するものの、コッターは警官に足を撃たれたカールトンを射殺して逃亡。カールトンの妹ホリデイ(バーバラ・ペイトン)は、何も知らずにコッターを匿います。やがてコッターは、高飛びするための資金を得ようと、白昼、スーパーマーケットの事務所に押し入り、売上金を強奪します。ところが、悪辣な警部ウェバー(ウォード・ボンド)にその金を巻き上げられます。

 

その後、コッターは罠を仕掛け、脅迫現場をテープレコーダーに録音し、それを証拠に逆にウェバーを脅かして自分の前科記録を抹消させます。ホリデイはコッターに愛情を捧げていましたが、彼は州一番の有力者・ドブスン(ハーバート・ヘイス)の娘マーガレット(ヘレナ・カーター)とも、ねんごろの仲となります。

 

コッターは秘かに州を越えてマーガレットとの結婚を成立させていたものの、ドブソンに強行に反対されます。やがて、コッターはウェバーと協力して、闇馬券屋が売上金を回収しているところを襲い、連中を殺害して5万ドルを奪います。そんな折、コッターはドブソンから呼び出しを食らいます。

 

冒頭の裁判の場面で、観客はコッターの起こした一連の事件が、既に片が付いていることを知らされます。ただし、主犯のコッターはその場にいなく、二つの可能性が考えられます。その理由は映画を観てのお楽しみということで、物語はコッターの脱獄から警部や弁護士を巻き込んだ事件の顛末が、回想形式で語られてゆきます。

 

本作はジェームズ・キャグニーの冷酷で強暴な振る舞いが堪能できる一作となっています。男はもちろん、女に対しても容赦ありません。ただし、彼の暴力が及ばない人間が、男女一人ずついるのですが・・・。コッターの押しの強さに惹かれるのか、ホリデイもマーガレットも、彼に靡いてしまうのが、(いくら作り話とは言え)我々凡人には解せません(笑)。

 

それはともかく、法を遵守するはずの警察官や弁護士を、悪事に引き込んでしまうのはある種の才能であり、仲間から抜けられないように工作する狡猾さも持ち合わせています。その意味では、腕力と頭脳で周囲を支配する、ジェームズ・キャグニーの魅力がたっぷり満喫できます。

 

そんな彼にも思うようにならない人物がおり、ドブソンから娘との結婚に反対されます。しかもドブソンには、身分を偽るコッターの正体が分かり次第、一瞬にして彼を捻りつぶせるだけの巨大な権力があるのです。コッターはドブソンから呼び出しを受け、観客の誰もが窮地に陥るかと思っていると、意外な展開を見せます。この話の流れにはちょっと意表を突かれましたね。

 

キャグニー主演のギャング映画の代表作に比べると凡作との評価もありますが、キャグニーの一挙手一投足に目の離せない映画で、とりあえずゴードン・ダグラスは彼の持ち味を如何なく引き出したと言えます。