なだらかな下り坂

 

 軽自動車はジェットコースターさながらに、

 

滑らかな加速を続けていた

 

 

窓から吹き込む高原の風

 

ふとまどろみから引き戻される

 

 

 ……おかしい

 

 車体がじわじわと左へ吸い寄せられている

 

フロントガラスの先には、

 

無機質な民家のコンクリート塀

 

 道路の左端は、側溝が口を開けている

 

 

「落ちる!」

 

窓枠に乗せていた左腕を、反射的に車内へ引き抜いた

 

 

ドンッ!!

 

 左輪が側溝に落ちる

 

激しい衝撃が全身を貫く

 

私は反射的に腕を前に組む

 

 

車体はそのまま、不快な金属音とともに塀を削っていく

 

だが、一向に減速しない

 

運転手は、まだアクセルをふんでいるのだ

 

 

ひしゃげた左ミラーが千切れ飛び、後方へ消える

 

金属なのか樹脂なのか、得体の知れないパーツが

 

飴細工のようにねじ曲がり、次々と宙を舞う

 

 

猛烈な音がしているはずなのだが,

 

なぜか無音である

 

恐ろしいほど鮮明な、スローモーションの世界だ

 

 

現実の時間は、わずか1,2秒に過ぎないはず

 

しかし、私にはそれが果てしない永遠に感じられた

 

無意識に全身の筋肉が緊張し,歯を食いしばる

 

脳裏に、今日までの記憶が濁流のように溢れ出す

 

いわゆる走馬灯というやつだ

 

幼稚園、小学校、中学校、高校、そして大学

 

色褪せたアルバムをめくるように

 

過去の情景が猛スピードでフラッシュバックしていく

 

 

そのすべての画像が流れ去ったあと

 

最後に現れるはずの……両親の顔が

 

……なぜか、出てこなかった

 

 

ガシャァァァン!! 

 

車は民家と民家の、そのわずかな隙間へと激突した

 

 凄まじい衝撃と同時に

 

私の視界は、眩い光に飲み込まれた――。