サンタ日記

サンタ日記

アストルティアを冒険している毛玉の日記です★

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「それでは、試合開始!」


「ゲ〜ッロ!」


ビ〜トルとロッピーの掛け声を合図に、果し合いが始まる。





アイシャ達は自分達の陣営からまだ一歩も動いていない。





「すみません、キラポンお願いします。」





てんちょ〜は観客席で、ナオがピッタリくっついて話しているのりみつというエルフの男をずっと睨んでチキンの声が全く耳に入っていない。





チキンはゴットに渋々バイキルトをかけた。



「必要ない。ゴット、覚醒」



突然ゴットの体中から白くまばゆい光がほとばしる。




ゴットはゴッドへと覚醒し、PT全員にダメージ完全無効化の結界が張られ、さらに5秒おきに全員にザオリクとベホマズンが発動しだした。




「え、ちょっと意味が…」




なんで戦士できたんですか? とゴットに言いかけたチキンは、アイシャが今か今かと短剣を振り回して相手を威嚇しているのをみて、慌てて彼女と自分にバイキルトをかける。






その頃観客席の一部では小さな事件が起こっていた。




「ねーちゃんねーちゃんかわいじゃねーか」

「俺たちと旅しよーぜ?」




デッドとコジュローという柄の悪いウェディの二人組が、えま という綺麗なウェディの女を両側から腕を掴んで連れ去ろうとしていた。




それに気づいたエルリックは、ビジャの後ろから移動し、下半身裸のまま えまを助けようと二人の前に立ちはだかった。



「変態は正義だが女性への暴力は乱暴は許さない」



「なんだこいつ?ふざけた格好しやがって俺たちに喧嘩売ろうてか?なぁ相棒!」



コジュローがそういうとデッドが嘲笑う。



「おう相棒!あっちいってな!」


そういうとデッドはエルリックに爆裂拳をかまし、ヒョロヒョロと痩せこけているエルリックは会場の真ん中へと飛んでいった。







アイシャが敵にそなえタップダンスを踊っている上にエルリックが空から落ちる。



「ちょ、いきなり誰だよ!」


エルリックをお姫様だっこしたアイシャは、彼の下半身をみるやいなや


「てめぇあっちいけや!」


といってエルリックをぶん投げた。




あまりの腕力の強さに、エルリックはかなり高く飛ばされ、観客席の上部の特別ボックス席で着地した。





「せっかく人助けしようと思ったのになんだよ…」




エルリックが頭を掻きながら顔を上げると、目の前には顎に手を添えたツイてるとその横に黒いフードの男がいる。





「ほう、実に興味深い」






そういうとツイてるは黒いフードの男の方を向き、その男はエルリックの腕を掴んで会場の外へと連れ出して行った。







「誰か助けてください!!」



ついにデッドとコジュローに会場から連れ出されそうになっていたえまが必死に叫ぶ。



それに気づいたビジャが慌てて駆けつけようとしたが、たどり着く前に柄の悪い二人は地面に突っ伏していた。



そのすぐそばで、先程まで売り子をしていたリ〜マンが両手を払っている。




「お嬢さん、怪我はありませんか?」


「は、はい!」


えま は顔を赤らめてリ〜マンに何度も頭を下げ、お礼を言っている。



「おお、男前だな」



ビジャはそのまま二人の方へ行き、リ〜マンにめたるに入るよう説得し、リ〜マンが入るなら自分も入ると えま もその日めたるに加入した。







「何やら観客席の方が騒がしいですが大丈夫でしょうか!?……おーっと!ずっと動きがなかった2チームがようやく動き始めました!」




しばらく観客席の方を眺めていたビ〜トルは慌ててアイシャ達の方に視線を戻す。




参戦者全員がお互いに近寄り、様子を伺っている。





てんちょ〜は柱の壁から何度も顔をひょこひょこ覗かせては、向かいにいる かめこを挑発していた。




「あのエル男、腹立ちます!殺しちゃっていいですか?」


武器を強く握りしめて怒りで体を震わせているかめこの肩をひめのんがポンッと叩く。



「待ちなさい。カッコンさん、頼みます。」

「OK〜!」



そういうとカッコントゥは隠れていた柱から出て、てんちょ〜が隠れている場所へと乗り込んだ。


カッコントゥに続いてかめこも近寄る。


「やーい、俺たち今なにしても無効なんだよ!」


てんちょ〜はスティックでカッコントゥの頭をポンポンと叩いた。




「永遠ZERO」




カッコントゥが零の洗練のような仕草でそういうと、突然アイシャ達のPTにかかっていた結界が全て解け、ゴッドの覚醒も解け、普通のゴットに戻った。



「な、ちょっとごっさん覚醒はやく!」



ハンマーを掲げてわなわな震えながら近寄るかめこに怯えたてんちょ〜は慌てて叫んだ。


「ゴット、覚醒」


しかしなにもおこらなかった。



「カッコンさんの永遠ZEROは、試合中相手PTに一切いい効果がつかない技なんだよ」


遠くからダッフルが得意げに説明している。



「そういうことです」


かめこは言い終わらないうちにてんちょ〜に向かって片手剣でAペチしながらハンマーでMPブレイクし、てんちょ〜が瀕死状態のところで止めた。


「今から杖でじわじわなぶり殺してあげますよ」



てんちょ〜は回復を唱えようにもMPが残っていない上に杖での攻撃のせいで、スティックでMP吸収しようにも苦戦している。


「てんちょ〜!そっちのドワ子はまかせたぞ!」


「え〜!!」


アイシャはまだ柱に隠れているダッフルのすぐ側に移動すると、ダッフルの胸ぐらを掴んで持ち上げ、王家のナイフ改で滅多打ちにした。


元々虫系に強い王家のナイフだが、サタンによって作られた王家のナイフ改は虫だけでなく自然系に対して5倍の威力を発揮するため、レンジャーのダッフルはすぐに瀕死状態になった。


そこへすかさずチキンがさみだれうちでダッフルにとどめをさす。


ダッフルはスタート地点にすぐに戻り、ひめのんの後ろに隠れた。



ゴットは覚醒ができないことがはがゆくて何度も隅で覚醒を試みている。


「おいナオ!その男だれだよ!」

かめこに杖で殴られているてんちょ〜の視線の先には、観客席でナオがのりみつに一生懸命話しかけ、のりみつは見向きもせずひたすらどうぐぶくろの中のふくびきの数を数えている。



「久しぶりだな」


アイシャは柱に隠れず、堂々とひめのんの目の前に立った。


「覚えていてくれたとは感激だ」

ひめのんはそういって、一本の指を巻きつけた短剣をアイシャに突き出す。


「え、あの人指一本しかないんですけど…」


チキンはひめのんの指をみて動揺した。


「アイシャさんに指を取られたメンバーはみんなキャラデリして指ありキャラになったけど、リーダーだけはずっとあのままなんだよ!」


カッコントゥがアイシャを睨みつけながら怒鳴る。


「というかお前達なんで指あるんだよ…」


ひめのんはカッコントゥとダッフルの方を振り返る。


「ほら!初期からの思い出を大切にしてるあまり指一本のキャラをリーダーはこうやって選んでるのさ!」


熱く叫ぶダッフルとは対称にひめのんは

「いや…俺だって指戻す方法あるなら知りたいんだがお前達にやり方聞いてもキャラデリがどうのって意味が…」


「つべこべいってねーで闘えよ!!」


まだ話している途中のひめのんにアイシャが短剣で切り掛かった。


「「リーダー!!」」


カッコントゥはすぐにひめのんを回復し、ダッフルはアイシャの短剣に切り裂かれながらも間に入って壁になる。


チキンはカッコントゥにダークネスショットとシャイニングボウを打ち込み、回復を阻止しようとするが、バイキルトが消された現状ではなかなかとどめをさすことが出来ない。


アイシャは目の前の回復を浴びながらしぶとく戦う小さな壁をひたすら切り刻み、再びとどめをさそうとしたその時、瀕死状態のダッフルは渾身の力で


「フェンリルアタック」

と技を繰り出した。



ダッフル達の後ろから一匹のライオンが駆けつけ、ライオンはアイシャを飛び越え、チキンに襲いかかる。



それと同時にカッコントゥがブーメランをチキンにぶん投げてとどめを刺した。


「くそっ!!」



そういいながらもアイシャは、ブーメラン攻撃でカッコントゥの回復が止まった隙にダッフルを落とした。


アイシャはそのままひめのんに短剣を振りかざすが、ひめのんは短剣でそれを受け止め、刃と刃が擦り合わさる音が響く。


「俺は決着をつけるから、あの魔法戦士を止めてこい!」


ひめのんの言葉にカッコントゥは頷くと、てんちょ〜とかめこを通り過ぎ、敵のスタート地点へと走ってチキンの復活を待った。



アイシャと互角のチカラで刃を受け止めるひめのんの一本指は流石に限界がきて、指がつり始めている。


スタート地点から戻ってきたダッフルはそれを察し、すかさずアイシャの壁に入った。



「回復ないんで少ししか時間稼ぎできません!」


「助かる」


ダッフルが壁になりながら再びフェンリルアタックをしかけた。


チキンを襲ったライオンが現れたが、先程よりかなりふらついてヨロヨロとゆっくり近づく。


「ほらはやく!アタックして!」


復活してすぐで既にボロボロのダッフルはライオンに命令するが


「え〜、まだチャージたまってないのに呼ばないでよ。今日あと5時間は無理!眠いの!じゃあね」

といってライオンは帰っていった。





「え……」



困惑しているダッフルにアイシャが再びとどめを刺す。



しかしダッフルの時間稼ぎの間にツメを装備したひめのんがアイシャにライガークラッシュで襲いかかった。



ツメは一本指の特注で、素材も値段も通常の10分の1で済むため、ひめのんは高級理論値を装備している。



「…やるな」


アイシャは頬の血を拭うと、ひめのんのツメを避けながら彼の最後の指を短剣でひたすら狙った。



その頃、復活して無敵時間中のチキンはカッコントゥに追い回されながら急いでゴットがこもっている隅へと走っていた。



「ゴットさんもちゃんと戦ってくれませんか?」


「ゴット、覚醒」


ゴットはまだ覚醒を試みている。


「もうあなたに覚醒は無理なんですよ!あきらめてください!」


ゴットの肩を揺さぶりながら叫ぶチキンの言葉に、ゴットはとても悲しそうな顔をし、覚悟を決めたように杖からオノへと持ち替えた。



ちょうどその時チキンの無敵時間が切れ、ドルマドンを唱えていたカッコントゥにゴットは蒼天魔斬をおみまいし、チキンが急いでシャイニングボウを打ち込んでカッコントゥを落としす。


「あるならはやくオノだして…」


「てんちょ たすける!」


先程までとは別人のゴットはチキンの顔に唾を大量に飛ばしてそう叫ぶと、てんちょ〜とかめこの方へ走り出した。



てんちょ〜はかめこに杖でなぐられ続け、ついにHP1になり、かめこは最後の一発を片手剣とハンマーとオノで殴ろとしている。


かめこが武器を振り下ろした瞬間、てんちょ〜は頭を抱えてとどめを覚悟したが、何も痛みを感じない。


恐る恐る目を開けて顔を上げると、目の前で戦士のゴットが両手を広げててんちょ〜をかばっていた。



その隙にチキンがかめこにフォースブレイクで属性耐性を下げ、てんちょ〜が慌ててチキンの後ろに逃げ込むとゴットが守備力の弱いバトルマスターのかめこを落とした。



3人は急いでアイシャの元へと走っていく。







「ヒヒ〜ッく」


リ〜マンから大量の酒を買って完全な酔いつぶれていたイブは、ゆうきの細長い耳を引っ張っては遊んでいる。


「いてて…!ちょっとイブちゃん!今試合いいところなんだからやめてよ!」



その少し後ろでは、ふみやがカラーひよこという浅黒い赤のオーガを睨みつけていた。


「まっさん、どうするの」


ふみやは低い声で、カラーひよこと見つめ合っているまさむねに問いかける。


ビジャの一喝で後ろの席へと移動したまさむねとふみやの横にいたカラーひよこに、まさむねは一目惚れしたのだ。


カラーひよこもまさむねの熱い視線に心を奪われ、お互い見つめ合ったままピクリとも動かなかった。


ふみやはとうとういじけて、まさむねの背中をポコポコ殴るが、山の様な背筋に刺激を与えることはできなかった。




「アイシャさん!」


チキンとゴットとてんちょ〜がかけつけた頃には、アイシャは瀕死の状態で3人の敵の相手をしていた。


「おせーよ!」


そういうアイシャの前にゴットが立ちはだかり、壁となって彼女をかばう。


「てんちょ〜さん、回復!」


チキンの言葉にハッとしたてんちょ〜は自分が僧侶だったことを思い出し、慌てて回復呪文を唱えた。

しかしMPが足りない。


チキンが急いでてんちょ〜にMPパサーをする。



「ビホマル〜⤴︎!  ……」


しかしなにもおこらなかった。


てんちょはあまりにもなまっていたため、正しく呪文を唱えることができないのだ。


「ビホイミッ⤴︎」


しかしなにもおこらなかった。


「べって言えないんですか!?ホイミでいいからはやく!」


「ホイミ⤴︎」


てんちょ〜はチキンの言う通りホイミを唱えた。

すると変なイントネーションに、戸惑いながらも緑の光たちがアイシャを回復する。




「いや、魔力が戸惑うなよ!  ホイミ⤴︎ホイミ⤴︎ホイミ⤴︎ホイミ⤴︎ホイミ⤴︎ホイミ⤴︎!」




カッコントゥの永遠ZEROのせいで祈りができないてんちょ〜はひたすら回復力の少ないホイミを唱え続けた。


「体力が戻ってきたぜ…」


アイシャはうなだれていた顔を上げると、短剣を強く握りしめた。


そしてゴットにかばわれながらなりふり構わず短剣を振り回す。


カッコントゥはひたすらベホマラーを唱え、てんちょ〜はホイミを自分のPT4人に順番で何度も唱え続けている。



白目を剥きながら短剣を振り回すアイシャの攻撃にひめのんのツメが折れ、カッコントゥの回復が追いつかなりつつなったとき、かめことダッフルはツメの折れたひめのんを守るため間に入った。

そしてフィンガーハットの4人がピッタリ固まった瞬間、チキンは素早くゴットの腰にさげている両手杖を奪い取ると、マダンテを唱える。



「…しまった!」



フィンガーハットの4人は一気に倒れ、すぐさまスタート地点へともどると、物凄い形相で襲いかかってくる。


アイシャたちは慌てて自分達の陣営へと走り出す。



「は、はやく走って逃げないと!追いつかれる!」


てんちょ〜がホイミを止め、震える声でそう言った瞬間、アイシャが装備している爆音詠みの衣が光り、語りかけた。



「追いつかれる?俺を呼んだか?」


すると光がころもから離れ、真っ赤なエイトへと変わった。



運転席にはエンビィーが座っている。


「はやく乗りな!」



先程まで観戦席にいて一緒に応援していたはずが突然消えたエンビィーをトモ・ウーパがウロウロと探し回っている。


アイシャたちが車に乗ると、エンビィーはギアをハイトップに入れ、一瞬で自陣へとたどり着いた。



フィンガーハットが追いかけてもアイシャたちを乗せた車は一瞬で対角線上へと消える。



「そろそろ帰るぜ旦那」



エンビィーがそういうと突然彼と共に車が消えた。



ぜぇぜぇと息を切らしたフィンガーハットがやっとアイシャたちに追いついたが、とても互角に戦える状態ではない。



「そろそろ最後だな」


そういってアイシャは短剣をひめのんの最後の指に当て、ゴットがオノ無双をしかけ、てんちょはゴットの後ろからかめこに挑発し、チキンは弓を構えた。



「くっ、最後の手段……」


ダッフルは息を切らしながら両手を天にかざした。



「なんだ?あの変なライオン以外に友達いるのか?www」



アイシャの罵りに耳も傾けず、ダッフルが言い放つ。



「  G  」



「ん?なんもこないけど?」


調子にのったてんちょ〜がさらに冷やかした。



カサカサカサカサカサ…



しばらくすると観戦席の後ろの方から黒い波が押し寄せた。


その波は一瞬の間に観戦席を飲み込み出す。




「ぎゃーーーーー!ゴ◯ブリ!!!!」



「うわ!なんだこれ!!!」



観戦席は完全に混乱に陥っていた。




「ん、何これ?おいしいのかな………おえっ!!!」


完全に酒に溺れているイブはその黒光の物体を一匹パクッと口に入れて吐き出した。




屋根がサンルーフになっている特別ボックス席にいたツイてるはルーラストーンでさっさと飛び去って行った。


「ちょ、ロッピーだめだよ!」


下をだして黒いものを狙っているカエルのロッピーを急いで胸ポケットに戻したビ〜トルも、ツイてるのいた場所へ駆け出しルーラストーンで飛び去った。



観戦席で我先にと全員が会場からでていき、参戦者であるめたるとフィンガーハットの8人は真ん中で360度黒い波に囲まれてしまった。



「な、なんとかしろ…」


ひめのんが冷や汗をかきながらダッフルにいうが、ダッフルはそれ以上に冷や汗をかき、真っ青になっていた。



「昔ホイホイから助け出したのは3、4匹だけだったはずなのに…家族、増えたみたい……」


ダッフルの隣でかめこは気絶しかけて、てんちょ〜に支えられている。



「そうだ、ごっさんならなんとかできる!永遠ZEROを解いてくれ!はやく!」


アイシャはカッコントゥを掴み上げた。



「わ、わかったよ」


カッコントゥは永遠ZEROを解いた。



チキンが先程奪った両手杖をゴットに返すと、ゴットは嬉しそうに張り切って杖を天にかざした。



「ゴット、覚醒!!!!!!」




すると今までの何倍もの白い光がゴットの体をつつみほとばしる。



その光は迫りくる黒い光をも飲み込み、コロシアム全体を眩く照らし浄化した。




「G、全滅してる…」


ダッフルは目に涙を浮かべていた。




「決着はまた今度だな。しかし強くなったな。」



「今度はきっちりと勝負つけてやる」



アイシャはひめのんの一本指を握り、握手をかわした。






つづく…







チームめたるの4人がバトル場にでると、満員の観戦席から歓声が沸き起こった。



「おおお!アイシャ率いるチームめたるの登場です!めたる創設者であるサンタさんは我が主ツイてる様のご友人です!皆さん盛大な拍手を!」



先程ツイてるの横にいたビ〜トルというウェディがマイクで叫ぶと、会場中から拍手喝采が起こる。


「お、アイシャ達きたぞ!……おい、うしろ!ドンドン俺の椅子蹴んなよ!!」


あっきーの横に座っているビジャの後ろでは、ふみやとまさむねの2人が試合そっちのけでガサゴソとしながら

ああああっ

と雄叫びをあげている。


「ねぇちょっとあっきー…あんたの連れてきたフレ、臭いきついんだけどどうにかなんないの…?」

あっきーとドワーフのまぼちこに挟まれたかょかょはあっきーに耳打ちする。


「ああ、まぼさんワキガだから。だからそこ席ゆずったんだよ」


「ちょっと!席かわんなさいよ!!」




あっきー達から少し離れた席に座っているサンタは、スラリンが連れてきたルビダというプクリポに必死にチーム勧誘していた。



「そ、そこまでいうなら…」


ルビダはサンタとプクリポフェチのスラリンのおしに負け、めたるに加入したがメンバー達はこの熱気でお知らせに気づく者はいない。






「なんだ?ご丁寧に司会までついてるのか」


アイシャはふんっと鼻を鳴らして会場の真ん中に歩み出る。



しばらくしない間に反対側から4人の対戦相手が姿を現した。



「おおーっと!ここで本日の果し合いを挑んだチームフィンガーハットのとうじょ…あっこら、ロッピーだめだろ!」



ビ〜トルの胸ポケットから突如小さな緑のカエルが現れ、ビ〜トルの肩へとジャンプすると、そこにちょこんと座った。



「ロッピー、ここで大人しくしとくんだよ。……失礼しました!一本指ひめのん率いるチームフィンガーハットの登場です!ひめのんさんもまた、我が主ツイてる様のとても繋がりの強い大事な大事なご友人です!皆さん盛大な拍手を!!!」




先程よりも大きな拍手喝采が起こる。




「あのカエル男、フィンガーハットびいきなのか?」


てんちょ〜はビ〜トルを睨みつける。




「ではここでメンバーと職業の案内をさせて頂きます!

まずチームめたる!

ウェディたぶん女 アイシャ 旅芸人!なんともどこかでみたようなみたことないような短剣を持ってますね〜!

人間子供男 チキン 魔法戦士!弓矢の数、計り知れず!なんと高校生だとか!

エルフ男 ゴット 戦士! おーっと戦士にも関わらず腰にそえてるのは両手杖かー!?謎に包まれた男ですね!

エルフ男 てんちょ〜 僧侶! まぁ、みるからに普通のみずのはごろもですね…」



「ゴットさん、オノないんですか?」

チキンはゴットに冷たく言い放つと、ゴットは両手杖を掲げて


「いける」


と意気込み、チキンはそれ以上何も言わなかった。





「この熱い戦いにビール〜!ビールはいかがですか〜?」



観戦席の間をくぐってウェディのリ〜マンは酒の売り子をしている。




「続きまして〜  チームフィンガーハットの紹介です!

リーダー エルフ男 ひめのん 盗賊! 数々の苦労を乗り越えてきた男!さて、あの指でどう武器を操るのか!


プクリポ男 カッコントゥ 賢者! 一見普通の賢者だが何か秘めたものを感じますね〜!

ドワーフ女 かめこ バトルマスター! おっと!ちょ〜っとこれはすごい!普通片手剣二本が精一杯のはずですが、片手剣、ハンマー、オノ、両手杖まで一気に持ってますね〜!一体両手杖がどう役立つのか!?

そして最後に

プクリポ男 ダッフル レンジャー!……なんだかワイルドというよりもはや獣ですね!」



「みんなー!がんばってー!!」

フィンガーハット側の観戦席に座っているエルフ女のアイアイが大声を張り上げる。



「キャー!変態!!!」


観戦席でルカが悲鳴をあげ、そのすぐ横ではエルリックというウェディ男が下半身丸出しの状態でるかに擦り寄っていた。


「ちょ、あっち行けよ!」

すぐ近くの席にいたサタンがエルリックを蹴り上げると、エルリックは空を舞ってまさむねとふみやの間に着地した。


「あら、いらっしゃい坊や♪」

まさむねはエルリックを抱きかかえると、ふみやとおいしく彼を頂き始める。



「おい、てめぇらさっきからいい加減にしろよ!」


後ろが更に激しくなったことにしびれを切らしたビジャが一括すると、まさむねとふみやはエルリックを置いて一番後ろの席へと移動した。




「…なんか、みんな楽しそうだね…」


てんちょ〜が観戦席の方を見ながら呟くと、アイシャがゲンコツをかました。


「お前が行くっつったんだろ。いいか、回復は任せたからな。みんな、頼むぞ」



弓を磨いていたチキンと、瞑想していたゴットはアイシャを見て頷いた。




つづく…











コロシアムでの果し合いの一時間前



コロシアムに向かう途中、ラッカランに着いたアイシャはある事を思いついてURAGIRUに来ていた。





「え〜果し合いするの〜!?ラッカランすぐそこだし見に行ってきてもいいでしょ〜?」


バーカウンター内からアイシャの話を聞いたかょかょは、奥でグラスを磨いているエルフのカル〜という男に甘い声でねだる。



「いってもいいけどその辺の男いじめるなよ」



カル〜は呆れた顔でかょかょに許可を出した。




「ま、どうせこっちが勝つけどたまにはこの暗いとこから出て楽しめよ」



アイシャはそういって一口飲んだ焼酎グラスをカウンターに置くとURAGIRUの奥へ進む。



「ほら、そこもっとしっかり打って!」


「はい!師匠!」



奥には裁縫と武器を融合させた職人技の稽古をつけているサタンとルカがいた。


「あ、アイシャさん!」


アイシャに気づいたルカは、布を打っていたハンマーを下ろし、サタンにほら、といって彼女を指差した。


「アイシャさんお久しぶりですね。今日はどうしました?」



「実は果し状が届いてよ、今からコロシアムで試合なんだ。おそらく手強い相手だろうから…」


アイシャが言い終わらないうちに、大商人のサタンは手をポンッとたたく。


「なるほど!アイシャさんの武器と装備を作れと!今すぐにお作りします!ただし…」


「金なら糸目はつけない。たのむ」



「かしこまりました!ルカ、今から私の職人技をみていなさい」


そういうとサタンは素早い手付きで一本の短剣を作り上げる。


すると今度はかぜきりの羽やオーブを折り合わせ始めた。


「うーん、にじいろの布きれはだめだな。そうだ」


サタンはすぐそばの鍵付きタンスを開けると、真っ赤な下着を取り出した。


「エンビィーのパンツの布きれでつくろう」


「こないだ師匠がドライブさせてもらった方から頂いたものですね!?」


ルカは手を合わせて目を輝かせている。


「なんでドライブでパンツもらうんだよ…」


アイシャがそう言ってる間にサタンはころもを作り上げ、彼女の前に立った。


「ささ、できましたよ。王家の短剣改と、爆音詠みのころもです。」



「流石仕事がはやいな。金はコロシアムで勝ってからそいつらに払わせるよ」


そういうとアイシャはサタンから武器ところもを奪い取った。


「なんですと!?それは…よし、ルカ留守を頼む。私は戦いをみてくるよ。」


「ルカも行きます!」



「勝手にしな」


張り切って留守の準備をし始めた2人を残し、アイシャはURAGIRUを出た。



URAGIRUを出てラッカランを歩いているとめたるのメンバー達がアイシャを見つけて全員が走って寄って来た。


「どこいってたんだよ、計画たてないと」


てんちょ〜は慌ててアイシャの腕を掴んで止める。


「まぁ、なんとかなるから心配すんなって」


アイシャは全員を引き連れてコロシアムへと入って行った。



入るとそこには沢山の人集りができていた。



「キャ〜!本物のツイてる様よ〜!!」



「ちょっと!よく見えないじゃない!どきなさいよそこのごついオガ男!」


「なによ!ツイてる様はあたいのものよ!」



人集りの真ん中には、ツイてるとビ〜トルという2人のスマートなウェディと、小柄な黒いフードを覆った種族不明の男がいた。



「すまないが今から友人の大事な果し合いがあるので道をあけてくれないか」



ツイてるが髪を掻き上げると周りの女達と1人のオーガの男がクラッと倒れかけた。


「ツイさーん!」


女達の間を通り過ぎて行くツイてるの後を必死にジャンプしながらサンタが追いかけた。



「おや、サンタさんこんばんは。」


「お前あの魚と知り合いなのか?あいつ何者なんだ?」


アイシャは女達を掻い潜りながらサンタを捕まえて耳元で尋ねた。


「ツイさんはフレで、とっても優しくて強くてお金もちなんですよ」


「ほう…」


アイシャはじっとツイてるをみた。



ツイてるはアイシャに微笑み、サンタの方に視線を戻す。


「今夜はサンタさんも参戦ですか?」


「いえ、自分は今日はアイシャさんの応援にきたんですが、さっき下見にきたフレが観戦席はまだ実装されてないって教えてくれたのでここで待ってようかと…」



「…なるほど。ではこのコロシアム内にいる全員で観戦席に行きましょうか」


顎に手を当てていたツイてるはそういうと、ビ〜トルをみて頷き、ビ〜トルも頷くと2人は観戦案内ヴェルトのいる場所へ歩き出し、3人でひそひそと話し出した。


しばらくするとツイてるとビ〜トルと黒いフードの男は観戦席の方へと消えて行った。



「おお…。ツイさんが説得してくれたのかなぁ」


そこにいる全員がしんと静まり返っていたが、数秒後…我先にと皆が観戦席へと走っていた。


残ったアイシャとてんちょ〜とチキンとゴットは呆然とそれを見ていたが、4人は顔を見合わせ、覚悟を決めたように控え室へと入って行った。












ルーラストーンで集会所へ飛んだアイシャの元にゆうきとまさむねが駆け寄り、

「あいさん大変!はやく来て!」

と、2人に急かされ彼女は急いで集会所の中へと入った。




中に入ると、めたるメンバー達が大きなテーブルを囲って椅子にも座らず身を乗り出して一枚の紙を見ている。



「あ、あいさん来た!今さっき届いたんだけどこれみて!」


サンタがそういうと、アイシャはメンバーをかき分けてテーブルの真ん中に置いてある紙を手にとって眺めた。



「果し状…?」



アイシャは訝しげな顔をして読んでいたが、最後に記してある名前をみて納得した。



『アイシャ これは果し状だ。  俺たちはお前を倒す。今夜コロシアムに8時に来い。

      フィンガーハット リーダー ひめのん』




「はは、それにしてもきったねー字だな!」

ビジャが笑っていると、まさむねは腕を組み


「キッズからの手紙かもしれぬ…」


とアイシャの持つ果し状を眺めた。



それもそのはず、昔アイシャが所属していたチームのリーダーは、アイシャによって指を9本奪われ、残り一本の指で筆をとったのだから必然と字は綺麗とはいえないものになる。




「しかしひめのんさんって誰?」



「ナオはまだ入ったばかりだからわからないかもしれないけど、アイシャ、色んな人に恨みかってるからなぁ」


アイシャはイブの頭をゴツンと殴った。



「まぁ、こいつのことはよく知っている。誰かコロシアムの果し状、3人ついてきてくれないか?」



「そういうコンテンツなので私はパスで…」

スラリンはそういうとソファにちょこんと腰掛けた。


「僕もレースだったら参加したかったけど今回はちょっと…」


エンビィーも申し訳なさそうにソファに腰掛ける。


「おうよって言いたいところだが今夜はちと野暮用でな、すまん」


シュンはタバコを消してアイシャに頭を下げた。






「自分でよければ…」


1週間程前にビジャがめたるに連れてきたチキンという名のウェディが名乗り出た。



「おお、ありがたい。できればごっさんにも来て欲しいんだが…」



「OK!」


ゴットは無表情で快く引き受けた。



アイシャの恐ろしさを知っていて尚、果し状を送ってきたフィンガーハットチームはおそらく相当腕を磨き、流石のアイシャでも1人では手こずると思った彼女は、チート技を出せるゴットが来てくれるのは心強かった。


「そうだな…あと1人は…」



「俺行こうか?」



突然のてんちょ〜の挙手に、全員が彼をみる。



「ちょっとてんちょ!あんた行けんの!?」



ナオが心配そうにてんちょを見る。



「コロシアムいってみたかったんだよね〜」



独特のイントネーションに、めたるメンバー達は気が抜けて笑いが起こる。




「てんちょ〜いつも寝てるから、喋ってるの初めて聞いたけど、なまりすぎじゃね?wwwwww」



ゆうきの言葉に更に笑いが大きくなる。




「こらこらゆうちゃ、そんなこというでな…ブッ」



ゆうきを咎めようとしたふみやまで吹き出していたが、それも気にせずてんちょ〜はやる気になって自分の装備を整理し出した。



「よし、じゃあ今日夜20時、コロシアムサーバー31に集合だ!」




アイシャがそういうと、メンバー達は歓喜にあふれた。


20時になるまでの間、集会所内では



「どっちが勝つかかけよーぜ」

「よし乗った!アイシャに100万G!」


とビジャとあっきーのように儲けようとしている者もいれば、



「ああ、てんちょ大丈夫かなぁ」


と、ナオのように心配している者もいた。



「ねぇまっさん……今夜一緒にコロシアム観戦デート…しませんか?」



「やっ…ちょ、デートってふみさんそれって…!!」


その夜、一組のカップルが誕生したかもしれない。




つづく…









アイシャ達を乗せたエンビィーの車はそのまま三門の関所に来ていた。



そこでは他の冒険者達が門番に足止めをくらっている。




「なんだよめんどくせーな。エンビィー、行けるか?」



「まかせな、旦那!」



エンビィーはそういうと助走をつけるため車をバックさせ、エンジンをふかす。



「皆さん、危ないから下がってください!!」


そこに居合わせた、予知能力のあるクロウズは皆に慌てて呼びかけている。



しかし門番達は下がろうとしない。



「行くぜーーー!!!」





エンビィーの掛け声と共に車は物凄い勢いで門に向かって走り出し、門番2人を蹴散らして門をブチ破った。




「……なんだったんだ……」


冒険者達は穴の空いた門の向こう側に見える緑のフィールドを駆け抜けて行く赤い車を見つめて唖然としていた。






「ちょ、起きて!!おい、起きろよこいつ!!!」


まだ熟睡しているてんちょ〜の頭をナオがぶん殴ると、彼はようやく目を覚ました。




「…!!!…!!?」



彼は状況が読み込めず、物凄い勢いで過ぎていく景色を見て驚き、そのスピードの中ボンネットに乗っているアイシャをみて更に驚いた。




車はグランゼドーラ城の馬車の目の前で急ブレーキをかけてドリフトしながら止まった。





「さ、ついたぜ!とっとと…ストーリー進めていきましょうか ^ ^」



エンビィーはそう言いながら車を降りると、先程の鋭い目つきから優しい目つきに戻った。





「おえええ…」


サンタは車酔いのせいで歩きながらどうぐぶくろにもどしている。




「ま、とっとと進めるか!」



そう言うアイシャの後ろで


「…!!?」


てんちょ〜は驚きのあまりまだ声が出ない。











それから4人は一気に偽レンダーシアと真レンダーシアのストーリーを進めていった…。






それから約2週間後…




アイシャはメルサンディの小麦畑で寝転んで昼寝をしていた。




「アイシャさん!コロシアムオープンしたみたいですよ!今みんなで行こうか集会所で話し合ってます!」



突然のサンタのフレンドチャットに目を覚ます。



「ほう、いってみるか」



『そういやサンタっていつもインしてっけどいつ寝てんだ?…よく考えたら最近イン率高いやつ多いな…。みんなニートなのか?』



アイシャは寝起きでフラつきながら立ち上がると、ルーラストーンで集会所へと飛んだ。



つづく…












ボーーーーーーッ


大きな汽笛と共に、アイシャを乗せた船がレンドアから出航する。




「やっと地図の真ん中にいけるんだな」

アイシャはまるで普通の冒険者のように期待で心を躍らせている。





デッキでしばらく海を眺めてから、船の中を見て回ろうとドアを開けると、羅針盤を盗んだ偽クルーが慌てながら船内から出てきた。



「…いてっ」


そのクルーが抱えていた羅針盤がアイシャのエルボーに直撃し、痛さに右肘をさすっていると、続いてナオとてんちょ〜という一般冒険者の2人も出てきた。



「おいてめーらさっきからごつごつ当たりやがってなんなんだよ」




アイシャの言葉を無視して、先程の偽クルーが魔物へと突然姿を変えた。




「はやく倒さないと!」


「わかってる!」


ナオとてんちょはどうやらその魔物に用事があるようだ。




「てめーら無視すんじゃねえ!!!」



そういってアイシャがおたけびをあげると、3人はショックでその場にしゃがみ込んだ。




「あとてめぇ、さっきはよくもこの丸いのを肘におみまいしてくれたな!なんかしらねーがよこせや!」



そういってアイシャは魔物から羅針盤をとりあげると、魔物の顎を左拳で殴り上げ海へとぶっ飛ばした。




「…!もしかして前に野良でPTくんだアイシャさん!?」



あまりの強さにナオは一度組んだ事があるアイシャを思い出した。



「…そうだったか?」



アイシャが頭を掻いていると、帽子を深くかぶったクロウズが現れた。



「ありがとうございます。これで船はぶじ目的地へと着けるでしょう。」



「ほう、よくわからねーが俺は一眠りする。じゃあな」



そういってアイシャは船内へと足を運ぶ間際にしれっと、ナオとてんちょ〜にチーム招待を飛ばした。


「え!いいんですか?」


「ナオが入るなら俺も入る…」



2人の声が小さく後ろで聞こえるのを無視して彼女は客室へと向かった。



彼女が眠りにつく頃、めたるではさっきの2人があいさつしていた。




『いいから今入れよ』

アイシャは以前夢で脅していた、黄緑色の毛のプクリポを再び夢で脅していた。


『なんであんたは夢で会えるのさ?』


プクリポは怯えながらも必死に腰が抜けないよう姿勢を保っている。



『仲間検索をちょっと乱暴にいじったら、メカに強い、種族に詳しいで仲間検索できるようになって、お前がヒットした。だからこれは夢じゃなくてチャットの一部なんだよ』



プクリポは口をポカンと開けている。
『どんな技術でそんなしたのか興味あるな。よし、わかった!そのめたるに入ろう!』



こうしてスラリンというプクリポもめたるに加入した。




「お客さんっ!!ちょっと起きてくださいよ!!」


どうやらアイシャは深く眠っていたらしく、乗組員達が必死に叩いては起こしている。




「お、着いたか」


アイシャは目をこすると、ガバッと起き上がり、軽やかな足取りで客室を出た。




ココラタの浜辺に着くと、そこにはめたるメンバーのエンビィーが真っ赤なエイトのエンジンをふかして待機していた。



まだ実装されていない4人乗りの車のドルボードには、運転席にエンビィー、助手席にサンタ、後ろ座席には先程のナオとてんちょ〜が乗っている。

NPCたちは

「村でのドルボードは禁止ですよ!」

と騒いでいるが、エンビィーの鋭い眼差しとエンジンの爆音にたじろいていた。


「旦那!はやく乗りな!」


エンビィーの言葉にアイシャは


「お、おう!ってもう満員じゃねーか」


と言いつつ、アイシャがボンネットにドカッと乗ると


エンビィーは突然ギアをトップに入れ、物凄いスピードで浜辺を出て行った。



「さっきアイシャさんが入れてくれた2人とはやく仲良くなろうと思って、ビーちゃんと慌ててここまで来たんですよ!」


物凄い風に耳をなびかせながらサンタが風に負けないよう大声で叫ぶ。



「同じ船できたのにアイシャさん遅いから心配しちゃった。ね? …っててんちょ〜よくこのスピードで寝れるね…」


ナオはてんちょが振り落とされないように、彼のシートベルトをきつく締めた。



「わ…てっおる…さ!!」


アイシャはボンネットに掴むものがないため、車体に指を食い込ませながら風をもろに受けていた。



こうしてアイシャはレンダーシアに足を踏み入れたのだった。



つづく…











ドス使いのアイシャ…




彼女はドラクエを始める数年前は皆からそう呼ばれていた。




表向きは大手の巨大投資銀行に勤めていたが、その企業の裏には完全に闇の世界が存在していた。




このリーガルー銀行の頭取、リーマンは社長でありながら裏でアイシャの様な特殊部隊を行内に何人も忍ばせ、ことが起こればすぐに彼女たちを招集しては会社の危機を乗り越えていた。






ある日リーマンに招集されたアイシャは本社ビルの地下へと続く格納庫の隠し扉先の階段を下っていた。

薄暗い廊下を少し進み、小さな扉を開くと煌びやかな装飾が施された会議室へとたどり着く。



アイシャが部屋に入ると、大きな円卓にはすでにアイシャ以外の11人が席についており、部屋にの隅では一人の清掃員の男がせっせと箒で床を掃除している。



アイシャは空いている席に着くと、清掃員の男に声をかけた。




「頭取、遅くなりました」



「みんな集まったな?」



その清掃員はリーマン…



リーマンは頭取でありながら、普段は表に顔を出さず、清掃員として自社内の清掃をしており、この裏部隊のメンバー以外の社員達は頭取の姿を認識したことがなかった。



リーマンも席に着くと、深いため息をついた。



「我が社、いや、今世界を脅かそうとしている謎のウイルス軍団に関しては皆知っているな?」



「うちのシステム部にもかなりの攻撃を仕掛けてきてますからねぇ」


スラという小柄な男が眉間に皺を寄せる。



「つい先日、ジャビ君の捜索部の活躍によってその軍団の基地の一つと思われる場所を特定することができた。」



「おーやるじゃねーか」


「てめーら企画部は呑気にしょうもねーもん作ってる間にこっちは仕事してんのさ」



ジャビが隣の席のサタンにニヤリとすると、すかさず殺部のチキンが


「結局乗り込むのは僕たちですけどね」


と、突っ込む。



「うっ」


ジャビがバツの悪そうな顔をしていると、アイシャが突然立ち上がりリーマンに目を輝かせながら


「じゃあ、今すぐ私たち殺部の出撃ですね!?」


と尋ねる。




「それが…今回は違うんだよ。今回はあまりにも簡単に見つけてしまった。匂うと思わないかい?」



「まぁ本拠地ではないことは確かですしね。何かの罠でしょうなぁ」



メダパニ部のガタイのかなりいい大男のむねまさは組んだ足の片方のニーハイソックスをくいっと上に上げながら続ける。



「と、いうことは俺たちお色気担当のセクシー部の出番ですかな?」




「いやいや、私とチキンの殺部が行った方がはやいだろ」


アイシャは引き下がろうとしない。



「むねまさ君、アイシャ君、確かに今回はその罠にあえて引っ掛かろうということだが、あの企業がこのようなことをわざわざ仕掛けてくるのは初めてのことだ。なにが待ち受けているかわからない…。ということで今回は…」



リーマンがそこまでいうと、今まで黙っていた一人の小さな性別不明の人間が椅子から立ち上がり
言葉を遮った。



「ということで今回は身代わり部の自分がいってきます!」


この身代わり部の三田(サンタ)は、身代わり部のプロであり、今まで銀行強盗の人質や様々な交渉の手渡しなど、危ないはしをわたっきた。




それから三田は戻ってこず、音沙汰もなくなった。



三田がいなくなってから約1年…



リーガルー銀行の裏組織ではもちろんジャビ達によって三田の捜索はされていたが、あるウイルスがスラが取りまとめるシステム部のセキュリティを掻い潜り拡散し、社内にスパイがいるとよんだリーマンは特殊部隊達にしばらく会社には出勤を禁止し、社内の人間との接触も禁じたのだった。



『あいつらもう三田見つけたんかな』



アイシャはミューズ海岸の浜辺に座り、タバコ代わりに保管していた指を一本取り出すと、火をつけふかし、海を眺めた。




アイシャの横には踊り食いされたしびれくらげ達の残骸が転がっている。



「最近ドラクエでのイメトレサボりすぎだな」



そういうとアイシャは、オラッと小さく声を漏らし立ち上がると、腰に下げているドスを取り出すと自主トレの為スッと素振りを始めた。



当時ミューズ海岸の岩壁に亀裂が入っていた理由は語るまでもない。



続く…








ズズッ



アイシャは現実世界のこじんまりとした定食屋でとんこつラーメンをすすっている。



「替玉2個いれてくれ」



「うちはラーメン屋じゃないのよ~!じゅんちゃ~ん、このお客さん替玉っていってるんだけどい~い?」



背の高いスラッとした女が、厨房の奥にいる店主に声をかける。




「あぁ?誰だ定食屋を舐めてんのはー」


そう言いながら店主のじゅんと呼ばれた黒い真っ直ぐな髪が腰まで伸びている女が暖簾をくぐりながら客の方をみると、パッと明るい顔になった。



「あらっ!あいちゃん久しぶりじゃないの。もちろんOKよ~!かよちゃん替玉あげたげて~」


アイシャは片手をあげて軽く挨拶をする。


「じゅんちゃんがそういうなら~」


そういってかよは腑に落ちない顔で麺を茹で始めた。



「やだ!また行方不明者!?」



そう叫んだじゅんの視線は店の壁に取り付けられたテレビに向いている。



「またって最近行方不明者多いのか?」



アイシャに替玉をカウンター越しに渡しながらかよが驚いた顔で




「え~テレビ見てないの?最近連日で何人もいなくなってるのよ」


と答えた。




『最近ドラクエにインしっぱなしでこっちのニュースに疎かったからな』


アイシャはそう考えなら替玉を小皿から器にうつす。



「あいちゃん…もしかしたら何か関係あるのかしら?」



「どうだろう。調べてみないとわからないが…」




「え!なになに~!」



かよがじゅんの方をみると、彼女はタバコに火をつけながら天井を見つめた。




「あんたは最近ここで働き始めたから知らないだろうけど、あいちゃんはずっとここの常連さんだったのさ。そんで昔ね…」



「まいどー!」


じゅんの話を遮るように突然イントネーションが極端になまった高い男の声が店の入り口から響いた。



「あら、あまちちゃん。今日もありがとう~」




あまちは肩に担いだ米俵をカウンターの中に入ってかよに渡す。




「今週もいい米はいったんだよねー。今日は猫が赤ちゃん生みそうだからもう帰るよ」



「そうなの~。はいっこれお代ね!」


あまちはかよから米代を受け取ると、じゅんに手を振り、アイシャをチラッとみて店から出て行った。



「前の米屋は辞めたのか?」


アイシャはじゅんの方を見ると、じゅんは不安な表情を見せた。



「実はあきちゃんも行方不明者の一人なのよ…。あきちゃんと近所の、さっきのあまちちゃんが代わりに届けてくれてるんだけどねぇ」



「あっきーも行方不明者?あっきー…」


アイシャはドラクエのチームめたるのメンバーあっきーを一瞬思い出したが偶然だろうと思い、麺のなくなったスープを一気に飲み干した。



「あいちゃん…?」


「じゅん姉、また当分こっちにはこれねぇかもしれない」



「また探しに行くのね。」



「うむ。うまかったよ」



アイシャは二人に背を向けて店の入り口へ歩きながらかよにコインを投げる。



「500円じゃ流石に安すぎか」


フハハハと笑いながらアイシャは店を出て行った。



かよは咄嗟に受け取って握りしめた拳を開いてコインをみる。



「え~なによこれ~」



それは500円ではなく、白と緑の背景の真ん中にドラキーがのっているコインだった。








「ごっさん、ちょっと聞きたいことがあるんだ’」



アイシャはドラクエにログインし、ごっさんをラッカランのURAGIRU酒場に呼び出していた。


薄暗いURAGIRUの酒場でもゴットの体からは薄くて白い光が発光しており、周りを更に暗くくすませていた。



「?」



アイシャは手の平のサイズの小さい樽のジョッキに入ったビールをグイッと一口飲む。



「まず、どうやってリアルの世界でホイミとかを習得したんだ?」



「まて」




ゴットはアイシャの言葉を聞くと、慌てて彼女の口を手の平で抑えた。



「ここ、だめ。りあるではなす」



「わ、わかったよ。けどどうやって会うんだ?」


「今まだだめ。自由なったときあいにいく」


「自由?ごっさんリアルで誰かに拘束されてんのか?」


「まて!!!!!」



ゴットからは冷や汗が吹き出し、アイシャの口元を先程よりも強い力で抑えた。



「ちょ、まてってどこもいってねぇよ!それよりどういうことか教えてくれよ!」


アイシャはゴットの手を振りほどき、大声で叫んだ。



「ゴッド、覚醒」



次の瞬間、先程までとは比べ物にならない程のまばゆい光がゴットを包む。



「わ、わかった!わかったよ!その時を待つから覚醒はやめてくれ!」



「OK!」



ゴットから溢れる光が収まると、アイシャはホッと、ない胸をなでおろした。




すぐ横のテーブルでは魚の男がせっせとウェイターとして働き、山賊のような男に罵声を浴びせられながらテーブルを拭いている。



『あのときの社蓄魚ここでも働かせられたのか…』


アイシャは「リ~マン」と声を掛けようとしたが、今はゴットを早くURAGIRUからチーム集会所に送り届けることが最優先だと考え、開きかけた口を閉じた。




『まだまだ俺の旅は終わらなそうだな』




URAGIRUから出たアイシャはラッカランに降り注ぐ太陽を見上げながら小さなため息をついた。




続く…










「ここへは来るなといったはずだ!運営を呼ぶぞ!」


数人の罵声に見送られながらアイシャが道具職人のギルドを出た。




「ちょっと数人殴っただけだろうが」


彼女は悪態をつきながら舌打ちをし、めたるのチームの集会所へと向かう。



当時まだ集会所は未実装だったが、めたるメンバーのメロの家を共有し、集会所として使っていた。







ジュレット住宅村ジャングル地区にある、まるい大きな家の一階にある真っ青な王宮ソファにふかく腰掛けうなだれたアイシャに、シュンが日本酒の入った上半分が割れている瓶を渡す。




割れている部分はギザギザしており、まだ新鮮な血がうっすらとついていたがアイシャは気にせず残りの日本酒を一気に飲み干した。



「アイちゃんどうしたよ」


タバコをふかしながらシュンはアイシャに尋ねる。



「ちっとまたギルドを追い出されてよ」



そういうとさっき手渡された瓶をまじまじと見つめる。




「まぁ俺らみたいなのは表では歓迎されねぇからなぁ」



「なぁ、シュン兄これどこで手に入れたんだ?」



「まぁちと知り合いの道具職人が経営してる酒場で揉めてよ。まぁまだ中身があったから持ってかえって…」


「いや、そうじゃなくてこの酒と瓶自体どこで手に入れたんだよ…。…酒場?」


「あぁ」


シュンはタバコを暖炉で消すと、壁に立て掛けていた竹刀を手に取る。



「酒場って仲間貸してくれるあの酒場か?」


「まぁな」

アイシャは酒場で借りたサポート仲間に、雇って1分後ルーラしたとたん3人がアイシャの恐怖のあまり逃げ出し、紹介料を無駄にした苦い思い出があった。


「酒場はあんま信用してねーんだ」



アイシャは飲み干した瓶を床に投げ捨てる。



「だがな、ちと普通の酒場とは違うんだわ。ついてきな」



シュンはそういって竹刀を肩に担ぎ、集会所の扉を開けて外に出る。



アイシャは集会所のタンスからドスを数本を取り出して
腰に仕込み、シュンの後ろを追いかけた。





二人はラッカランに到着した。



「ん?ラッカランで社蓄の魚でも釣る気か?」



「は?何いってんだ、こっちきな」



シュンはそういってランプ職人ギルドへ入る。



「おいおい、ここも出禁なんだよ」



アイシャが入り口で立ち止まると、シュンはアイシャの背中を押し、入り口すぐ左の地下への階段へと進む。




地下には扉があり、そこを開けると小さな部屋に4つのランプが並んでいる。




「ここをちっといじるからちゃーんとみて覚えな」



シュンは竹刀で1番左のランプを回し、次に
1番右のランプから順に残りのランプを全て回した。




ガラガラガラガラ



すると4つのランプの中央に隠し階段が現れた。





「な、なんだこれ」




驚いているアイシャにウィンクしてシュンはその階段を下って更に地下へと進んだ。




「おいおいおい!待てよなんだよここ…」



呆然としているアイシャの目の前には、酒場や賭博場、職人ギルドなどが凝縮されたような広い地下街が広がっていた。



ただ地上のギルドや酒場と違うのは、そこにいる冒険者たちは柄が悪かったり、訳ありの者ばかりだということだ。



「まぁ、運営に睨まれてる連中は俺たちだけじゃねえってことだ。裏ギルド、通称URAGIRUだな」



そう言い残してシュンはすぐ左にある酒場のカウンターに座ると、バーを切り盛りしている半裸状態のオーガの女を口説き始めた。



「なぁかょかょちゃんそろそろいいだろ?」



「もう、またじゅんちゃんに告げ口するわよ~」


かょかょはカウンター越しにシュンに酒を出す。



シュンを見て苦笑いしながらアイシャは奥にみえる道具職人ギルドへと歩き出した。



途中怪しげなスライムレースをしている集団の側を通りすがった際、


「うおおおお!まじかよー!!」


と立ち上がって大声を張り上げているビジャが目に入った。




「…知ってるならみんななんで早く教えてくれねーんだよ」



アイシャはブツブツいいながら道具職人ギルドエリアに到着した。




カキーンカキーン



ごろつきどもが多いなか、めずらしく小綺麗にしているツインテールの女キャラが道具職人で何かを作っている。



「そのまだ未実装の髪型、お前何者だ?」



「あー、今いいところだから待って!」




その女は見向きもせず、制作物を仕上げると、急いで隣の武器職人ギルドエリアに移動し、魚の男に先程完成した物を手渡した。



「あ、さっきはごめんなさい!みない顔だけと一見さん?」


「こんなとこあったなんて驚きだよ」



アイシャがそういうと、突然ツインテールの女と魚の男は近くにある武器を手にとってアイシャを威嚇した。


「お前、運営の回し者か?それとも迷い混んだ冒険者か?」


魚の男は槍の先をアイシャの顎に突きだす。



「おいおいおい、物騒じゃねえか。まぁそういうのは嫌いじゃねぇけどよっ」



アイシャは突き出された槍を握ると一瞬で折り曲げた。




「ここは誰かの紹介じゃないと入れないルールなんですよ!」



ツインテールの女は職人道具のハンマーを震える手で振り上げた。


「紹介ってかうちのめたるのシュン兄に急に連れてこられたんだよ」




その瞬間ツインテールの女はハンマーをゆっくり下ろし、ぽかんとした顔で魚の男とアイシャを見た。




「シュン兄ってあのめたるの…?」



「シュンさんのお知り合いでしたか!」


アイシャが顔をしかめていると、


「おーいアイシャ、どうだ気に入ったかー?」




ふらふらと歩いてシュンが3人に寄ってきた。




「シュン兄!なんかこいつらが突然喧嘩うってきてよ」




「わりぃわりぃ。ここは訳ありの連中だらけだから紹介制になってんだよ。こいつは裏道具の職人るかと、こっちの魚の兄ちゃんは表ではカリスマ職人、URGIRUではチート武器職人の名人サタンだ。」



「チート武器…?」



「さっきは失礼しました。アイシャさんというのですね。どうぞご贔屓に。」



サタンは一礼すると先ほどルカから受け取った道具を持って武器職人ギルドの奥へと消えていった。



「私はサタンさんの弟子のルカぴょんです!気軽にルカって呼んでくださいね!」



とびきりの笑顔でルカはアイシャの手を握る。



「私も道具職人だ。訳あって表のギルドには行けなくてな。いろいろ話を聞かせてもらおうか」




「まぁここはそういう人だらけなのでwなんでも聞いてくださいな♪」



こうしてアイシャは今後重要な基地となるアストルティアの裏の世界を知ったのだった。


続く…







「あああああー道わかんねー」




アイシャは、あっきーと野良二人のPTを組んで、この頃はやっていた強ボスのオーブ金策のためスイの塔に登っていた。



まだ強戦士の鍵がない時代、強ボスと戦うにはそれぞれのボスエリアに足を運ばなければならなかった。





アイシャとあっきーは淡々とスイの塔を登り、目的地付近に到達していたが、野良のうちの一人、男エルフのてんちょ~は4人で来たにも関わらず道に迷ってまだ3階への階段も探しきれていない。




もう一人の野良の女オーガ、ナオはてんちょ~のフレらしく、彼がなかなか来ないため一度道を引き返して彼を探し回っていた。




「おいいいいい、おせーぞ」




効率厨のあっきーはあまりの遅さにしびれを切らしている。





アイシャは、プスゴンにやられた冒険者達の死体の山のてっぺんにあぐらをかき、指を奪い取っては自分の指保管袋に次々と詰め込んでいた。





「ちょっと、てんちょどこ!」



「ここーここだよー」




ナオは声がする方へ走ると、てんちょ~は3匹のともしびこぞうに絡まれてあたふたしている。



「もうこんなとこで遊んでる場合じゃないよ!…あの二人怖そうだしはやくついてきて」




てんちょ~はナオについてくをすると、アイシャ達より20分遅れて頂上に到達した。





~全員の準備が整いました~




ナオはへらへらしているてんちょ~が少しでも野良の迷惑にならないよう自分が2人分戦うつもりで気合を入れて天ツ風の間へと足を踏み入れた。




キュイーンッ



しかし仕事人の朝ははやかった。



一瞬真っ暗になって何も見えなかったナオは、気が付くと目の前に紫色の宝箱がある。





「え、え、どういう…」




「わーいわーい!」




戸惑っているナオを気にもとめずてんちょ~は中のオーブを取り出す。




「まぁ、一発で出たからそいつの方向音痴は許してやろう」




アイシャとあっきーはサッとオーブと取ると、天ツ風の窓から飛び降り、PTを解散していった。








「オーブ金策はいいがわざわざ現地に出向いて一匹一匹倒すのがめんどくせーなー。殺すのも一瞬だしなー」





アイシャはアズラン地方の草むらに寝転びながら青空を眺め考えていた。




そのプスゴンは怒りのあまり自分の家具を投げ飛ばしていた。




「あいつら…壁タゲできないと倒せない俺のことを毎日毎日こけのように一瞬で倒しやがって…!スウィートホームも毎回散らかしやがって!」




プスゴンは自分で投げ飛ばしたソファに座りアイシャ達が飛び出していった窓の外を見つめた。




「そうだ…」




きぐるみを来たようなかわいい体と顔に似合わず口元が歪んだ。








「へ~。ごっさんの家って質素だな」




ある晴天の昼頃、アイシャはゴットの秘密を探るべくアズラン住宅村にある彼の家に訪れていた。




『金目のモンはなんもねーな』




少し期待していたアイシャはすぐに飽きてしまい、



「んじゃ帰るぜー」



といってドアを開ける。




始終ずっと無言で微笑んでいるゴットは



「^^」



とだけいってアイシャを見送るために一緒に外へとでた。






のどかな農村地区では川のせせらぎが耳に心地よく流れる。





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突然こののどかな住宅村には合わない大きな爆音が響き、同時に地響きが起きた。





「な、なんだよ」



ぐらついたアイシャはゴットの宅のフェンスに捕まると、あたりを見渡す。




先程まで雲一つなく綺麗に晴れていた青空をどんどん暗い雲が覆いかぶさっていき、ゴットの丁目全体は完全に真っ暗な夜に包まれた。





「!」



さすがのゴットからも笑顔が消えている。






「ハハハハハハ」

「ウウフフフ」

「ひーっひっひひひ」


どこからともなく大多数の不気味な笑い声響き渡る。




その声はだんだんと二人の方へと近づき、気が付くとゴットの家は強ボスたちに囲まれていた。





「よくも毎回毎回タナトスとヒプノスを残酷に殺してくれるな」




アイシャは右を振り向くとイッドが長いベロを伸ばして二人を見下ろしている。




その隣ではマリーンがいただきボールを手のひらで転がしながら鼻で笑っている。





二人の正面でニヤニヤ笑っている天魔クァバルナの左に立っているプスゴンが二人に近づき、大声をあげた。




「おまえにいつも散々やられている同志を集めてきたんだよ!今日でおまえも終わりだな!」




プスゴンは5大陸の強ボス全員に声をかけ、アイシャについて相談したところ、全員が同じ悩みを持っていたことを知り、全員で奇襲攻撃をかける計画を立てたのであった。





ジウギスは奇声を発しながらアイシャ達に闇のブレスを浴びせた。




強ボスたちからはアイシャ達の姿が一瞬消え、すぐにブレスの中から2人の姿が少しずつ現れる。




「クックック…」




アイシャは下を向いて右手を額につけて笑っている。





「自分たちからまとめてオーブ捧げにきてくれるたぁ助かるぜこりゃあ」




「い、いや、おれたち全員できてるんだ!負けるわけねぇ!」



ぷすゴンがアイシャの強気にたじろいている他の強ボスたちに叫ぶと、強ボスたちも




「そ、そうだな」




「今度こそ潰すニャ~!」




と武器を握った手に力をこめた。






「ごっさん…!こいつらは悪の魂胆だ。もし神になりたいならこいつらを浄化させないといけないんだぜ?協力してくれるよな?」




さすがに全員の奇襲に不安がよぎったアイシャは前方を向いたまま、すぐ後ろにいるゴットに小声で呼びかけた。



「はい」




ゴットは両手杖を握り締めてうなづく。





「おらあああああああっ!」




アイシャはドスをを振り下しながら天魔に飛びかかった。



しかしその瞬間




ウルベア魔人兵がアイシャの真上にガレキ落としをした隙に、アラグネは彼女に糸を吐いて身体に絡めて拘束し、暴君バサグランデは闇のいなずまをぶっ放した。




ボッフ




飛びかかったアイシャは天魔に到達することなくボロボロになって地面に叩き落とされる。




そこへつかさず天魔が倒れ込んでいるアイシャに旋風脚をかまし、プスゴンはマジカルポシェットからいちご爆弾をとりだし、アイシャの上に投げた。





マリーンはアイシャよりイッドを見つめては自分の唇を舐め回していただきボールでイッドを狙っている。




ジュリアンテがムチを持ってアイシャに双竜打をしようとした瞬間、魔法使いに転職していたゴットが突然最近会得した魔力覚醒の特技をし始めた。




ゴットの体全体からまばゆい光が周り全てを照らし出す。



ただ通常の魔力覚醒と違うのは、光が神々しい金色なことである。





ゴッド、覚醒」

ゴットが小さな声でそう呟いた瞬間、神に近しい男「ゴット」は、完全な神、「ゴッド」へと覚醒してしまった。







「ハッ!!!!!!」

ゴッドが手のひらを天に向けると、突然ゴッドとアイシャにベホマズンとザオリクの呪文がかかる。




驚いて手が止まってしまったジュリアンテは気を持ち直して双竜打ちをしたが、ゴッドはアイシャと自分に結界を張り、完全に打撃・呪文無効状態にしてしまった。


ベホマズンによって回復したアイシャは立ち上がり、驚きとまどった表情でゴッドの方を見た。

「ちょ、ごっさんどうしたんだよ」


「ハッ!!!!!」


ゴッドは今度は両手杖を天に掲げてそう唱えると、再びアイシャとゴッドにベホマズンとザオリクがかかる。

「ちょ、魔法使いなのに回復と蘇生最強ってどういうこと!?」

「いま」



「え…?」

「いま勝つ」

眩いばかりのゴッドの言葉に

「そ、そうだな!今ならまとめて倒せる!いくぜ!」

とアイシャは気を取り直して強ボスたちのほうに振り返ると、ドスを一気に7本四方八方に飛ばし、ドスが飛んでいる間にイッドの首を締め上げ、オーレンの骨を拳で全て砕き、ラズバーンの股間を蹴り上げた。

「「「「ぐふっ…」」」」


次々と強ボス達が倒れていく。

アイシャにいくら攻撃しても、ゴッドが完全無敵結界を張るか、PT全員ベホマズンザオリクの呪文を5秒感覚で唱えているので完全に強ボスたちに勝ち目はなかった。


アイシャがとっておきのドスを取り出し、白目を剥いているプスゴンの首に手をかけた瞬間…

暗かった周辺は突然紫色の空間へと飲み込まれ、強ボスたちが薄くなって消えていく。

アイシャは嫌な予感がしてゴッドのほうを振り向いたが、ゴッドは覚醒状態が解除され、いつものゴットに戻っていた。

「まさか…」

アイシャはゆっくりと迫り来る紫色の空間を受け入れて、やがてくる覚えのある敵にみがまえた。

「…こんばんは、サポートスタッフです」

「わかってます…」

アイシャはやはりという顔をしてうなだれている。

「ならば話ははやいですね。今回はアイシャさんだけではなくゴットさんもチート技を意図的に連続でだしましたね」

赤い鎧の男がゴットに話しかけるが、ゴットは

「^^」

と微笑むだけである。

「アイシャさんは前科があるので、今回のペナルティは避けられません。いいですね?」

「ど、どのくらいですか…?」

「約10日間のアカウント停…」

「ちょっとまったあああああああ!!!!!」

サポートスタッフが言い終わらないうちに突然しゃがれた男の声が鳴り響く。

サポートスタッフとアイシャとゴットが声がする方をみると、そこには竹刀もったいかつい男のエルフが自分の名前にモザイクをかけたまま近づいてくる。

「シ○ンさん…?しゅ○?自分の名前を伏せるのも違反ですよ。あなたにもペナル…」

「おいおいおいおいおい!うちの姉さんを返してもらおうかぁ」

そのエルフはブラブラと猿のような動きをし、竹刀を振り回しながら届かないギリギリのところまで近づくと、目にも止まらぬ速さでアイシャとゴットを両腕で担ぎ、一瞬のうちにサポートスタッフの前から消えてしまった。

「ふう、シュン兄助かったぜ」

アイシャ達は真っ暗な空間に浮いているソファに座りながらくつろいでいる。

ここはふみやの息子、エルモがめたるチームメンバーの住宅村内にバグで作った真っ暗な裏空間である。

なにかと危険な動きをしているメンバーが多いめたるは、何かあるとすぐにここに逃げ出せるようにサンタがバグ空間作りを得意とするエルモに作るよう依頼をしていたのだった。

「^^」

ゴットはお茶を飲みながらくつろいでいる。

「次また助けれるとはかぎらねーんだぜ?気をつけな」

シュンはよっこらしょっと声を漏らしながらソファから立ち上がると明るい表の部屋へと出て行った。

アイシャの周りでは、いつしかカタギでも、カタギでないものでも助け合って生きていくということがごく自然になっていた。

『まずはあの赤い鎧を倒せるレベルにならねーと話にならねーな。めたるのみんなになんかあっても救えねーぜ』

初期の頃はただ人を脅していたアイシャに仲間意識が生まれたのもこの頃からであった。

続く…