ちょっと不思議なご婦人
数日前の事。ふらりとご婦人が入って来られた。
見た感じは90歳あたり。お一人だったので、少し気になって話しかけてみた。
とても達者に話される。昔から、古いものや変わったものが好きだと。
二品程、お求めになったが、少しばかり値が張る。
ここで、不安が・・・
少しばかり物事の判断が難しくなっていないのだろうか?
失礼な事とは思うが、改めてご婦人の身なりに目がいってしまった。
上から下までおろしたてのようにシャキッとした和装だった。
着物に疎い僕でも、大層上質なものだと分かる。
布地のリュックから取り出された財布も、高価なものだった。
まっ、大丈夫か、と思いながらも僕はまだ疑っている。
一人で何故こんな町外れの店に?・・・
いざ精算になって、何枚かのお札を僕に出されて
「ちょっと待って下さいな。小さなお金があったら良いのだけど・・・あらっ、50円足りない。じゃあ、残りは千円札で」と。
金銭のやり取りもしっかりしている。
僕は、お金を受け取りながら「お近くにお住まいですか?」と、何気なく尋ねてみた。
「まあ、近くといえば近くです。◯◯区です」と。
昔からこの町の中心部にお住まいの方は、◯◯区と言った呼び方をする事がある。
◯◯にお住まいの方か。この店には場違いな雰囲気のはずだ。
しかし、ちょっと状況が分からず、「どちらかに行かれる途中ですか?」と、尋ねてみた。
「いえ、家に帰る途中です」
ますます、分からなくなって来た。
「歩くの、しんどくないですか? ご家族の方、お呼びしましょうか?」
「大丈夫です。困ったら呼びます。なるべく歩かないとね。今日は、バスに乗ってみたの。ちょっと間違って乗ったみたいで、そこの停留所で降りたの。ついでだから、歩いて帰ろうと。その帰り道にこのお店を見つけて」と、嬉しそうに仰る。
因みに、うちの店の近くの停留所は駅前に向かう1系統のみだ。間違ってはいない。
お住まいの〇〇区は、ここから数停留所ほど駅寄りだ。
という事は、相当歩かないといけない。大丈夫か?
そうこう思っている内に、ご婦人は「お世話様でした。今度、その置物を頂きにきます」とテーブルに置いてある品を指して、帰って行かれた。
歩き出した方向も近道で合っている。
うまく書けないが、話し言葉は船場言葉混じりの粋なものだった。
そんな言葉を使える方は、随分少なくなっただろうな。
杖もつかずにスタスタと歩いて行かれる後ろ姿を見ながらも、本当に大丈夫か?
無理にでもご家族に連絡したした方が良かったんじゃないだろうか?
結果的にお見送りをしただけだけど、そんなもやもやとした気持ちが残った一日だった。