第837回「ヘル・アウェイツ」 | PSYCHO村上の全然新しくなゐ話

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発売より時間が経過したアルバム、シングル、DVD、楽曲等にスポットを当て、当時のアーティストを取り巻く環境や、時代背景、今だから見えてくる当時の様子などを交え、作品を再検証。

ヘル・アウェイツ/スレイヤー

ヘヴィ・メタルを、より攻撃的に、さらに過激に進化させたスラッシュ・メタルは、当時のアンダーグラウンド・シーンで人気を博していたものの、それは一部のマニアのための音楽という扱いで、まだジャンルとして定着するには及ばなかった。

 

中でもスレイヤーは、悪魔崇拝をテーマとした歌詞、聴き手を切り裂くようなスピード感、そしてジャケット・デザインの邪悪さなど、当時の価値観からすれば、良識のある大人が眉を顰めるバンドだった。

 

それでもバンドは、精力的なライヴ活動でファンを増やし、カルト的な人気を誇る存在になって行く。実際、バンドが所属していたメタル・ブレイド・レコードにおいて、デビュー作「ショウ・ノー・マーシー」(1984年)が当時最も売れた作品となった。

 

ファンは御承知のように、スレイヤーのメンバーは純粋なミュージシャンであり、インタビュー等を読むと、音楽に対して真摯に取り組んでいる方々と判る。

 

歌詞の内容やバンドが放つ危険な薫りは、飽くまでイメージであり、真面目に音楽活動を行っていた事実が、ファンの心を動かしたに違いない。また、邪悪なイメージは、メンバーが影響を受けた先輩バンドへの多大なるリスペクトが表れている。

 

2ndアルバム(EPとライヴ盤を除く)に当たる本作「ヘル・アウェイツ」(1985年)では、音楽性、歌詞、そしてイメージに至るまで、後に定着するスレイヤーのイメージを提示した重要作品となった。メンバーは前作に引き続き、トム・アラヤ(Vo.b)、ケリー・キング(g)、ジェフ・ハンネマン(g)、デイヴ・ロンバート(ds)。

 

発表初期は「地獄への誘い」という邦題が付けられていた。現在では「ヘル・アウェイツ」のタイトルで定着している。ヘルだけに、ジャケットは地獄絵図を描いたものであろう。こういった系統のデザインは、後のアルバムで頻繁に採用されるが、その出発点となったのが本作だ。

 

1曲目は代表曲であり、ライヴでも定番の「ヘル・アウェイツ」。テープを逆回転させたような不気味な効果音を経て、ヘヴィなギター・リフが入る。ケリーの鋭いリフを合図に、以降は有無を言わさぬスピードで駆け抜けるナンバーだ。

 

ライヴでは冒頭の効果音はサンプリング・テープを流し、重いギター・リフが入るパートから生演奏になることが多い。また、効果音のパートを省き、前に演奏した曲からメドレー形式で繋がるアレンジの場合もあり。何れにしても、どの時代にも演奏されている1曲だ。

 

「キル・アゲイン」も、スピード・ナンバー。直訳すると「再び殺す」であるが、歌詞カードの日本語訳に「次はお前だ!」となっているのが、訳詞担当者のセンスを感じる。「アット・ドーン・ゼイ・スリープ」は、部分的に取り入れられたギターのハモリが美しさと妖しさを醸し出す。

 

この「アット・ドーン・ゼイ・スリープ」と5曲目「ネクロファリアック」は、不定期ながらライヴで取り上げられている。2015年に行われた日本公演では、アルバム「ヘル・アウェイツ」発表から30周年を記念し、これら2曲がプレイされた。

 

バンドの歴史を振り返ると「プレイス・オブ・デス」「クリプトス・オブ・エターニティ」「ハーダニング・オブ・ジ・アーテリーズ」辺りの曲に焦点が当たる機会が少ないが、どれも初期スレイヤーらしいナンバーである。

 

前作「ショウ・ノー・マーシー」の音楽性を継承しながらも、全体的な音質とサウンドが向上している。これは前作の売り上げによって、予算が出たことが録音状態と密接に関係したと考察できる。

 

前作では、英語の発音にたどたどしさがあったトムのヴォーカルも、本作において各段に良くなっている。ギタリスト2人のキレの良さ、デイヴのドラミングのスピード感とパワーも特筆すべき点。デイヴのドラム・スタイルは後続のミュージシャンに多大な影響を与えている。

 

本作を最後にバンドはメタル・ブレイド・レコードを離れ、大手のメジャーなレコード会社と契約。名作「レイン・イン・ブラッド」(1986年)を制作する流れとなる。

 

尚、バンドは1984年にEP「ハウンティング・ザ・チェペル」を発表しており、一時期のCDではアルバム「ヘル・アウェイツ」の中に同作収録の「ハウンティング・ザ・チェペル」「キャプター・オブ・シン」を混ぜた曲順の商品が出ていた。

 

これを書いている現在、EP「ハウンティング・ザ・チェペル」は単独商品として再販されている。発売の順からしてもEP「ハウンティング・ザ・チェペル」とアルバム「ヘル・アウェイツ」は別々の作品として接するのが、バンドの意図する本来の聴き方と思う。