境界サイケ特集 その6 | サイケデリック漂流記
2007年11月21日(水)

境界サイケ特集 その6

テーマ:サイケデリック
Astro Sounds From Beyond the Year 2000
101 Strings Orchestra
Astro Sounds From Beyond the Year 2000

101 Stringsの"Astro Sounds"(1968)は、モンド/ラウンジ関係ではカルト的な人気を誇る大名盤(ジャケも最高!)。Folkswingersの“Raga Rock”もひれ伏してしまうほどの、最高にグルーヴィでイカしたインストアルバムです。

101 Stringsというのは、「60sヒット集」とか「ビートルズ名曲集」とか「映画ラブソング集」とか「ラテン名曲集」とか、さまざまなテーマの膨大な数のレコードを量産してきた(60年代にはそれが飛ぶように売れたらしい)、有名なイージーリスニング楽団。そんな彼らがサイケデリックに挑戦したのがこの"Astro Sounds"です。

私は、はじめて聴いたときは、レココレのサイケ特集号の「・・・101ストリングスの音楽的野心溢れる冒険作。C級SF映画から想を得たようなわけの判らないノイズとギターのひずんだ音色が雄大な弦と溶けあい現出させる光景はまさにモンド。」という記事による予備知識のみだったので、ほんとに聴いてビックリしました。異様に歪んだファズギターやエフェクトがストリングスと融合する有様は、並のプロパーなサイケバンドが裸足で逃げ出すくらい強烈にサイケデリック。「いくら60年代だからといって、イージーリスニングのレコードにこれはありえないだろう」と思ったのですが、やはりその裏には、いかにも60sらしいエピソードがあったのでした。

実はこのアルバムには元ネタがあります。101 Stringsの演奏以外のサイケなバンドサウンドの部分はすべて、1967年のAnimated Eggというグループによる同名アルバムの全10曲と、そっくりそのまま同じ曲、同じテイクが使われているのです。60年代の映画のダンスホールのシーンなんかでかかっていそうな、ファズギターやグルーヴィなハモンドオルガンをフィーチャーした、「なんちゃってサイケ」テイスト溢れる美味しいインストナンバーたち。このバンド演奏にフェイザーやレズリースピーカーでエフェクトをほどこし、101 Stringsの弦をかぶせて、曲名をSFっぽいものに変えて並べ替えたものが"Astro Sounds"というわけです。


Animated Egg
Animated Egg (リンクはamazon.com)

ところが、このAnimated Eggというのも「なんちゃってバンド」でありまして、ジャケに写ってるお兄さんたちは中身の音とはまったくの無関係。実体のない架空のグループによる似非サイケ(インスト)アルバムなのでした。それなら、実際に演奏してるのはいったい誰なのか? ・・・これがサイケファンには結構有名な、Idというグループだということがわかりました。

Idの実質は、プロデューサーのPaul Arnoldを中心に、ギターのJerry Cole(Byrdsの"Mr. Tambourine Man" やBeach Boysの"Pet Sounds"などに参加)らのセッションマンによるスタジオプロジェクト(バンドとしての活動も試みたが失敗に終わった)。1967年にRCAから"The Inner Sounds of the Id"というアルバムを1枚出しています。このときのセッションによるアウトテイク(歌なしインスト)をPaul Arnoldが勝手に持ち出し、101 Stringsの所属レーベルであるAlshireに許可なく売り払ったのが、Animated Egg~Astro Soundsの音源となったのです。

ちなみに、Idのアルバム本編は歌入りのガレージ風サイケナンバーが主流で、レココレのサイケ特集号でもガレージ系の名盤として紹介されていました。しかし、他のガレージサイケ物とはかなり趣きの異なる奇妙なテイストがあるのは、セッションマンによる「企画もの」の色合いがあったからかもしれません。本編の印象はAnimated Eggとは異なるものの、CD収録のボーナストラックを聴くと、別テイクながら確かに彼らがAnimated Egg~Astro Soundsのソースであることがわかります。


Id
The Inner Sounds of the Id

もともとAlshireというのは、音楽をホットケーキかなにかのように考えているようなモンドなレコード会社で、Animated Eggを出したのも、当時「サージェントペパーズ」などでポップス界にも「サイケデリック」な気運が盛り上がっていたからでした。そして、翌68年には「2001年宇宙の旅」やジェーン・フォンダ主演の「バーバレラ」の公開があり、SF映画のサントラ的な音楽の需要の高まりが見込まれていました。

"Astro Sounds"は、使いまわしの音源(しかも盗品)を利用して、流行りのサイケとSFを合体させ、レーベルのドル箱楽団のアルバムに仕立て直して売ってしまおうという、徹底的に姑息で商魂たくましい動機から生まれたレコードだったのです。いってみれば、60年代「企画もの」アルバムの極北。それがこんな素晴らしい作品に化けてしまうのだから、60年代ならではのマジックなのかもしれません。特に、フェイザーやエコーなどのエフェクトがかけられた、エキセントリックなストリングスの音が異様にサイケでクセになります。

ところで、Animated EggやIdセッションからの別テイク(101 Stringアレンジを含む)は、Alshireレーベルのほかのレコード("Black Diamonds: A Tribute to Jimi Hendrix"というタイトルや映画のサントラなど)にも再利用されています。それだけにとどまらず、Paul ArnoldはId音源をあちこちのレコード会社に売り歩いていたらしく、Projection Companyの"Give Me Some Lovin'"(1967)や、T. Swift and the Electric Bagの"Are You Experienced"(1968)、Associated Soul Groupの "Top Hits of Today"(1968)といったタイトルも、この音源を利用したアルバムだとか。(盗用とまではいかなくても、セッションミュージシャンによる匿名音源を使いまわしたりするのは、特に60年代には結構よくあったことらしい。)


T. Swift & the Electric Bag
Are You Experienced?

面白いことに、これらの音源を作曲/演奏した張本人のJerry Coleは、この件に関して数年前にインタビューされるまで、"Astro Sounds"の存在さえ知らなかったそうです。アルバムを聴かされて、"No doubt, that album is entirely me ..... every tune."と言ったとのこと。

追記:
2008年にSundazedからリリースされたAnimated Eggのコンピ"Guitar Freakout" のライナーによると、その後Jerry Cole(同年に逝去)は前言をひるがえして「Animated EggはIdのセッション音源ではない」と言っているようです。「それなら、プロデューサーが音源を勝手に持ち出したという話はどうなるんだ?」と思ってしまいますが、彼が否定したのはIdの本編とAnimated Eggのサウンドがあまりにも異なっているからということで、確たる記憶があるわけではないようです。


Animated Eggの最も「どサイケ」な曲、"Sock It My Way"(1967)。
101Stringsの"Flameout"の雛型となった(これにストリングスが重なる)。

Ameba人気のブログ

Amebaトピックス