なぜ、周囲の大人は簡単に「母がもっと頑張れ」とすでに限界の母に言うのか
子どもの発達や不登校、癇癪、学習の遅れ、友達関係のトラブルなどで悩んでいる母親に対して、周囲の大人が「お母さんがもう少し頑張って」「家庭でしっかり見てあげて」「もっと関わってあげて」と言うことがあります。
言っている側に悪気はないのかもしれません。
しかし、すでに限界まで頑張っている母親にとって、その言葉は励ましではなく、最後の力を奪う言葉になることがあります。
なぜ、周囲の大人は簡単に「母がもっと頑張れ」と言ってしまうのでしょうか。
その背景には、子どもの困りごとを家庭の問題、特に母親の関わりの問題として見てしまう古い考え方があります。
子どもが落ち着かない、言葉が遅い、学校に行けない、宿題ができない、友達とうまくいかない。
そのような姿があると、まず「家庭でどうしていますか」「お母さんはどう関わっていますか」と母親に視線が向きやすいのです。
もちろん、家庭での関わりは大切です。
子どもに合った声かけや環境調整が、子どもの安心につながることもあります。
しかし、それは母親だけが背負うものではありません。
子どもの発達特性、認知の凸凹、感覚の過敏さ、学校の環境、集団の負荷、父親や家族の協力、地域資源の有無など、子どもの困りごとには多くの要因が関係しています。
それなのに、母親の努力だけに原因や解決を求めると、支援ではなく母親への負担の上乗せになってしまいます。
すでに限界の母親は、何もしていないわけではありません。
むしろ、誰よりも子どものことを考え、調べ、試し、先生に相談し、病院や発達相談に足を運び、毎日の癇癪や宿題や登校しぶりに向き合っています。
優しく言ってみる、厳しく言ってみる、絵で示す、予定を伝える、褒める、待つ、距離を取る。何度も工夫して、それでもうまくいかないから苦しんでいるのです。
それでも周囲から「もっと頑張って」と言われると、母親は「まだ足りないのか」「私のせいなのか」と自分を責めてしまいます。
本当は必要なのは、母親の努力を増やすことではなく、母親の負担を減らすことです。
たとえば、園や学校で支援を増やす、放課後等デイサービスや児童発達支援につなげる、相談支援専門員に入ってもらう、宿題量を調整する、家庭での声かけを減らす仕組みを作る、父親や家族にも同じ理解を持ってもらうことが必要です。
また、WISC-Ⅴ検査や新版K式発達検査などを活用し、子どもの得意と苦手を見える化することも有効です。
子どもが「わざと困らせている」のではなく、聞いて覚えることが苦手なのか、書くことに負担があるのか、切り替えに時間がかかるのかが分かると、母親のせいにするのではなく、支援の方向性を考えやすくなります。
周囲の大人に必要なのは、「お母さん、もっと頑張って」ではなく、「お母さん、これ以上ひとりで抱えなくて大丈夫です」という言葉です。
母親が倒れてしまえば、子どもを支える土台も崩れてしまいます。
子どもの支援と同じくらい、親を支えることは大切です。
すでに限界の母親に必要なのは、根性論ではありません。
安心して話せる相談先、具体的な支援、休める時間、そして「あなたのせいではない」と言ってくれる大人です。
子どもの発達支援は、母親だけが頑張るものではなく、家族、学校、医療、福祉、地域が一緒に支えるものです。
母親にさらに頑張らせるのではなく、母親が少しでも楽になれる仕組みを作ることこそ、本当に必要な支援なのです。
発達障害ラボ
車重徳

