シェークスピア名句 26 「お気に召すまま」 

 

 この世は舞台    2018 07 07 (Sat)
 
 「お気に召すまま」で最もよく知られていることば。
 
 アーデンの森で、飢えたアダムを救うためにオーランドーが前公爵たちの食事を奪おうとする。前公爵がジェイグイズに 語りかける。
 
 Thou seest we are not all alone unhappy. This wide and universal theatre Present more woeful pageants than the scene Wherein we play in.
 
 「どうだ、不幸なのはわれわれだけではない。この広い世界という劇場にでは、われわれの出ている場面のほかにも まだまだ痛ましい場面が演じられているのだ」
 
 それを受けてジェイクイズの語るくだり。
 
 All the world's a stage,
 And all the men and women merely players;
 They have their exits and their entrances;
 And one man in his time plays many parts,
 His acts being seven ages. (As You Like It, II. vii, 139-43)
 
 全世界は一つの舞台だ。
 そしてすべての人間は男も女も役者にすぎない。
 めいめい出があり、引っ込みがある。
 しかも一人が一生に沢山の役を務め、
 その全幕は七つの時代から成る。(『お気に召すまま』II. vii, 139-43)
 
 
 ちなみに七つの時代とは、赤ん坊、小学生、恋人、兵隊、裁判官、老人、第二の幼年期。
 最期の「第二の幼年期」には、「歯なし、眼なし、味なし、何もなし」と締めくくる。
 
出展: 英語名句辞典 「お気に召すまま」 訳 岡本靖正、栗原裕、河本仲聖 大修館書店
 
◇◇◇ 
 人生を劇場とたとえる考え方は、このブログのテーマ「翻訳修行」の中で取り上げた、 キャサリン・マンスフィールドの「ミス・ブリル」にも見られる。老境に入ろうとするブリルは、公園のベンチでまわりの人日を を見ながら、自分が主役であるとイメージする。現実を知らされ、家に帰り、きつねの襟巻をしまいながら泣く。。
 
 Sスポーツセンターの、エアロビやズンバ・スタジオで華やかな衣装の熟年女性たちは、60分の舞台を主役で踊り狂う。 観客は前面の鏡に映る自分である。家に帰れば物静かなおばあさんである。
 
 五木寛之は紹介する。ヒンズー教徒たちの理想の人生には四つの段階がある。
 ①学生期(がくしようき)」 ②「家住期(かじゆうき)」 ③「林住期(りんじゆうき)」 ④「遊行期(ゆぎようき)」
 「林住期」ではこ財産や家族を捨て、社会的な義務からも解放され、人里離れたところで生活する。 「遊行期」では、この世への一切の執着を捨て去って、乞食となって巡礼して歩く。

 
 ジェイクイズのいう 「一人が一生に沢山の役を務め、その全幕は七つの時代から成る」 はそのとおり。
 だが今は、最後の「第二の幼年期」や、ビンズー教徒たちの「遊行期」を考えないことにしよう。それはその時になって考えればいい。 明日のことは考えない。
 「いま」「ここ」だけで、この舞台で主演を演じる。