何年か前。
多くの銀行で行われているように、僕の勤める銀行でも年に1度、世界各国の本店・支店で為替業務に携わる仲間が集まって、ミーティングを開催していた。
だいたい、2泊3日ぐらい。
ミーティングとは言っても、せいぜい9時から夕方は18時ぐらいまで。
中身も、遊び要素がけっこう強い。
数人ごとのチームに分かれて、新聞紙とセロハンテープだけ渡されて、高いタワーをつくる競争をしたりとか。
ビデオカメラを渡されて、短編映画を撮ったりとか。
本チャンが終わると、夕飯のパーティーから、明け方まで騒ぐ。
遊び要素というか、まあ、遊びだ。
目的は、コミュニケーションの確率。
為替をやってると、コンマ何秒の判断で、大金をつかんだり失ったりする。
大陸をまたいで意思疎通がスムーズにできるかどうかは、たぶん経験したことのない人には想像もつかないぐらい、重要なポイントになってくる。
ITだの英語力だのを越えて、互いの性格やクセなんかを理解し合えていることが、けっこう決め手になったりする。
もちろん、そんなことが物を言う局面はそうしょっちゅうあるわけではなく、何ヶ月に1回、何年に1回という頻度。
そうだったとしても、何億円かのこの馬鹿騒ぎのコストは、十分にペイする。
で。
ここからが本題。
その年は、このミーティングのホストが東京で、会場は舞浜のとあるホテルだった。
同室は、シンガポール人の同僚。
彼と部屋の中でどうということのない話をしていた時の、彼のひとことが忘れられない。
「Japan is a strong society」
正直、ピンと来なかった。
が、彼曰く、
「政治家が失言したりすると、それが何か実害につながったりしたわけでなくても、辞任させられたりする。不正がバレたような場合には、容赦なく責任を取らされる。そういったことが法の裁きや政権の裁量ではなく、国民世論によって方向づけられる。そんな国・社会は、アジアには他には1つもない」
Strong Society
強い社会、ではない。
社会が、強い。
時として、いや、しょっちゅう、やり過ぎもあるんだけど、とにかく不正を許さない社会。
これが、日本。
日本の、最後の砦なんだと思う。