我は海の子 | DVD放浪記

我は海の子

我は海の子 特別版 [DVD]/スペンサー・トレイシー,フレディ・バーソロミュー,ライオネル・バリモア

¥1,500
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◆「我は海の子」予告編

「ジョニー・ベリンダ」に味をしめた私は、ワーナーの「黄色の背」のDVDを追っかけていたのだが、また1本当たりくじを引くことができた。スペンサー・トレイシー主演の「我は海の子」だ。


大富豪の息子ハーヴェイは、わがままし放題に育った問題児。嘘をつくことなど日常茶飯事で、人の弱みにつけ込んで恐喝まがいのことも平気でやってのける恐るべき子供だった。そして、そうした素行がたたってついに一時停学処分をくらってしまう。父親は、仕事にかまけて息子を省みなかったことを反省し、ハーヴェイとともに過ごす時間を持つべく船旅に出る。

ところが、そのハーヴェイは、乗船早々ふとしたはずみで海中へ転落。たまたま付近に居合わせた漁船の乗組員マニュエルに助けられることになる。その日を境に彼の生活は一変した。

船長の息子ダンを除けば大人の船乗りたちばかりの世界にあって、かつてのようなわがままが許されるはずもなく、最初のうちこそふてくされて意地を張っていたハーヴェイも、じきに進んで漁師たちの仕事を手伝うようになる。かつての問題児は確実に成長を遂げ、粗野だが人情に厚いマニエルとの間には親子そのものの強い絆が生まれるのだった。しかし、やがて彼らには試練の時が訪れる……。


グランドバンクスという世界的な大漁場の名前を単に活字としてしか目にしたことのない私にとって、この映画の中で展開される漁の模様は実に興味深いものがあった。

漁の前に皆でえさ作りに精を出す場面など、CGで作られた世界などからは決して感じることのできない魚の臭いが漂ってくるし、同郷の他の船を出し抜こうとあの手この手を弄する一方で、大漁で真っ先に船倉を一杯にした船が漁場を離れる前に、他の船の乗組員らの手紙を集めて回るその仲間意識なども丁寧に描かれている。

また、画面合成の部分こそ、さすがに時代を感じさせるものの、決して大きいとは言えない帆船が風を切って荒立つ波を乗り越えて突き進む場面には、すさまじいまでの迫力がある。

そう。これはまぎれもなく海の男の映画なのだ。


この作品で1937年のアカデミー賞主演男優賞を獲得したスペンサー・トレーシーもさることながら、ハーヴェイ少年を演じたフレディ・バーソロミューが達者な演技を見せてくれるし、脇を固める名優たちもそれぞれにいい味を出している。

タイトルで思いっきり引いてしまう人もいるかもしれないが、これはだまされたと思って観てほしい。70年前に製作されたものでありながら、今なお輝きを失わないこの映画は、古き良き時代のハリウッド最良の部分が反映された作品のひとつだと思う。

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我は海の子
Captains Courageous

1937年 モノクロ 117分
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◆スタッフ
監督:ヴィクター・フレミング
製作:ルイス・D・ライトン
脚本:マーク・コネリー/ジョン・リー・メイヒン/ディル・ヴァン・エヴェリー
原作:ラドヤード・キプリング
撮影:ハロルド・ロッソン
音楽:フランツ・ワックスマン

◆キャスト
マニュエル・フィデロ:スペンサー・トレイシー
ハーヴェイ・チェーン:フレディ・バーソロミュー
ディスコ船長:ライオネル・バリモア
チェーン氏:メルヴィン・ダグラス
ダン:ミッキー・ルーニー
”ロング・ジャック”:ジョン・キャラダイン
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