アメリカ政界の内幕なら…
生前のシナトラは、この「影なき狙撃者」がお気に入りだったのか、リメイクには否定的だったらしいが、最近になってとうとうリメイクが作られた。ジョナサン・デミ監督の「クライシス･オブ･アメリカ」（2004年）である。そして、この作品の製作にはシナトラがかかわっているのだ。どういうことかというと……
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では、どういうことかというと、フランク･シナトラにはナンシー･シナトラという娘がいて、彼女は歌手として有名だが、もうひとりの娘、ティナ・シナトラがこの「クライシス・オブ・アメリカ」の製作者としてジョナサン・デミらとともに名を連ねているのである。どうやら、「影なき狙撃者」の映画化権を買い取ったのはフランク･シナトラだったらしい。
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主人公にデンゼル・ワシントン、彼と共に湾岸戦争時に洗脳を受けた後、政界入りしホワイトハウスを目指すレイモンド･ショーにリーヴ・シュライバー、彼の母であり、強力な後ろ盾である有力上院議員エレノア･ショーにメリル・ストリープを据え、ジェフリー・ライト、ジョン・ヴォイト、ブルーノ・ガンツらを脇に配したこのリメイク版のキャスティングはかなりのインパクトがある。
例によってメリル･ストリープの演技は手堅く、レイモンド候補擁立に難色を示す自党内の反対者を言葉の力技で一挙に押し切る部分は、なかなかの見せ場だ（ヒラリー・クリントンもこんな感じなんだろうか）。選挙戦を報じるテレビ映像もリアルに作りこんであり、このあたりの芸の細かさには感心する。
ただ、ジョナサン･デミ監督は、これだけ政界の内幕をリアルに描いた映画はないだろうと豪語しているが、まあ、それは言いすぎだろう。「パーフェクト・カップル」（1998年）があるじゃないか、と突っ込みたくなるのは私だけではないはずだ。
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ちなみに、政界の要人の中には、あのB級映画の帝王ロジャー・コーマンがカメオ出演したり、映画の合間に挿入されるエレノアのテレビ対談の相手にアル・フランケン、コメンテイターのひとりとしてシドニー・ルメットが登場するなど、ゲストも多彩だ。
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Al Franken
Lies (and the Lying Liars Who Tell Them)
さて、オリジナル版（1962年）の背景にあった東西冷戦の図式がもはや成立しなくなった今日にあって、このリメイク版では、Manchurian という言葉をどう位置づけるかに苦労したという。その結果、巨大企業 Manchurian による政界支配という新たな構図のもとにストーリーは組み立てられている。
この、企業と政治とのつながりは、とりたてて目新しい話ではないが、ここでは、一歩も二歩も踏み込んで、政治家のマインド･コントロールを直接行おうというのがミソだ。そのために、旧東側の科学者が協力するという設定は、まあ、安易といえば安易だが、時代を反映しているとはいえるのだろう。
率直に言って、個人的には、荒削りながらも、オリジナル版「影なき狙撃者」のほうが、映像的にははるかに洗練されているリメイク版より好みではあるが、リメイクを観たあとにオリジナル版を観た人の感想も聞いてみたいものだ。
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クライシス・オブ・アメリカThe Manchurian Candidate
2004年 カラー 130分
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◆スタッフ
監督：ジョナサン・デミ
製作：ジョナサン・デミ／イロナ・ハーツバーグ／スコット・ルーディン／ティナ・シナトラ製作総指揮：スコット・アヴァーサノ
原作：リチャード・コンドン
オリジナル脚本：ジョージ・アクセルロッド
脚本：ダニエル・パイン／ディーン・ジョーガリス
撮影：タク・フジモト音楽：レイチェル・ポートマン／ワイクリフ・ジョン
◆キャスト
ベン・マルコ：デンゼル・ワシントン
エレノア・ショー：メリス・ストリープレイモンド・ショー：リーヴ・シュレイバー
アル・メルヴィン：ジェフリー・ライト
ロージー：キンバリー・エリス
ジョーダン上院議員：ジョン・ヴォイト
デルプ：ブルーノ・ガンツ…………………………………………………………………………………