催眠術の効果 | DVD放浪記

催眠術の効果

11月24日の「影なき狙撃者」の話の続きである。

 

 

この映画では、人の精神作用に人為的に影響を及ぼし、ある種のトリガーによって、命令に絶対服従する人間を生み出せるという前提のうえに物語が構築されている。この前提にリアリティを感じることができなければ、すべては間抜けな話になってしまう。

 

 

 

私も、どちらかというと当初は懐疑派のひとりだったのだが、あるテレビ番組を見てから考えが一変してしまった。映画から少し離れるのだが、今日はそのことについて記しておきたい。ただし、特にメモをとっていたわけではないので、放映時期、チャンネル、番組名等はいっさい不明だ。その点あらかじめお断りしておく。

 

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何年も前の話だが、ある晩、適当にチャンネルを切り替えながらぼけっとテレビを眺めていたとき、画面には、正月用の料理特番を収録中とおぼしきスタジオ風景が映し出されていた。ホスト役がたしか、滝田栄(と酒井和歌子だったか?)、ゲストがいろいろ出演しており、そのうちのひとりの女性タレントが、その番組の “キー・パーソン” だった。

番組収録の準備風景が続くうちに、突然スタジオ内に大音量で音楽が鳴り響く(民謡調の曲だったような気がする)。すると、その女性タレントがいきなりフライパンの底をおたまか何かで叩きながらスタジオ内を踊りまわり始めたのだ。

他の出演者たちは皆唖然として立ちすくみ、島田紳助などは、(正確な言葉は忘れてしまったが、たぶん)「この人危ないですよ」と言いながら彼女と距離を置こうとめいっぱい身を引いていた。確かに、私にも彼女の様子はとても正気のものとは思えなかった。

しばらくの間スタジオ内は騒然としていたが、やがて奥のほうから、おなじみのマジシャンが登場し、皆に種明かしをした。一種の「ドッキリカメラ」だったのだ。ただし、その料理番組の収録自体は本物だったのかもしれない(全体がやらせだったとしたら、相当な金をつぎ込んだことになる)。

 

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この女性タレントは、以前別の番組でもそのマジシャンに催眠術をかけられ、(バラエティ番組のお約束だろう)本人自身にも思いもよらぬ行動をとらされたことがあるらしい。最後に彼女は催眠術を解かれ、その番組は無事終了した(はずだった)。

だが、実は、そのとき催眠術は完全には解かれていなかった。ある音楽を耳にしたら、フライパンを叩いて回るようにという指示だけは解かれることなく、この料理番組の収録時まで生き残っていたというのだ。マジシャンは放心状態の彼女にお決まりの手続きを踏んで、「これでもう完全に催眠術は解かれました」と宣言する。

これを聞いて、ゲストのひとり松尾貴史は、「こんなことして許されるのかよォ!」と、スタジオの奥のほう(おそらくは製作関係者)を怒鳴りつけ、その隣では滝田栄が女性タレントに「もうあんな人(=マジシャン)の近くにいちゃいけないよ」と語りかける様子が画面に映し出される中、私が見ていた番組は終了した。実に後味の悪い番組だった。

 

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この女性は、「催眠術にかかりやすいタレント」として、その種のバラエティ番組では重宝がられていたようだ。催眠術というと、どこかインチキ臭さがつきもので、事実、テレビ番組では「やらせでかかった振りをしていた」という話が絶えないという。この女性タレントの場合もやらせだったのだろうか。意地の悪い見方をするなら、松尾貴史滝田栄の抗議の姿勢も、単に番組の締めくくりとして演出されていた可能性だってありえなくはないかもしれない(まあ、松尾貴史のブチ切れ度は尋常ではなかったけれど (^^;)
 
また、たとえやらせでなかったとしても、「影なき狙撃者」の場合とこの女性タレントの場合とでは、細かく見るといろいろ異なる部分があるので、同列に論じられない面もある。だが、この番組から受けたインパクトはあまりにも強烈で、それ以降、「影なき狙撃者」で描かれた内容が全くの絵空事とは思えなくなってしまった私なのである。