ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
メッテルニヒ追放⑩~ウィーンっ子と皇室Part2~
皇室は賭けた。
4人の命の保証はまったくないけれど、この案に賭けた。
馬車は王宮の門を出る
ぶるぶるぶる・・・・。ガタガタ・・・・。
依然、恐怖で顔が引きつっている2人。
「ねぇ、ねぇ、皆僕の側を離れないでよっ。僕を1人にしないでよ、いーね?」皇帝は顔面蒼白だ。
市民の狂乱の中馬車は進む。
しかし…耳を澄ませると、そこには罵声はない。
「ばんざーい、ばんざーい」
「皇帝万歳!」
市民が憎んでいたのはメッテルニヒただ1人だった。
デモの目的はメッテルニヒ打倒であって、皇室ではなかったのだ。
「叔母上、これで安心ですね。」
「ええ、本当に…」
皇妃とフランツ・ヨーゼフはホッと息をつく……が、フランツ・ヨーゼフは自分が今見ているモノが信じられず、唖然とする。
「あら、フランツィーどかしたの?」
「いえ、どうって…あの…あれ…」
フランツ・ヨーゼフが小さく指をさした先に見えたのは、満面の笑みで市民に大きく手を振っているフェルディナント帝だった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
最初は不安でガタガタ震えていたフェルディナントだったが、市民に敵意がないと分かり、後から後から沸き起こる歓声が聞こえると、すっかり幸福な気分になっていた。
「わーい、皆ぁ、有難う!有難う!僕は皆と共にいるよーっ」楽しそーに手を振るフェルディナント。
あ〜んぐり…。
開いた口が塞がらないとは、まさにこの時の皇妃とフランツ・ヨーゼフの事を指すのだろう。
「無邪気と言うか、単純と言うか…あの脳天気な性格、ちょっと羨ましいな」
生真面目なフランツ・ヨーゼフは、帝国の将来が気になって仕方がない。
そう、この時帝国の将来を案じた様に、そう遠くない将来、この帝国の将来はフランツ・ヨーゼフの双肩に降りかかってくるのだ。
しかし、この時点では、フランツ・ヨーゼフはおろか、皇室の誰もがまだ知らない。
こんな頼りない皇帝なものだから、船長を失ったハプスブルク号は直ぐに頓挫してしまう。
つづく