ラノベ「双頭の鷲―ハプスブルク家物語―」
メッテルニヒ追放⑧~フェルディナント帝の復讐?~
宰相の座を降りたメッテルニヒには命の危険が迫っていた。
宮廷を去る前にメッテルニヒは皇妃マリア・アンナの下に最後の挨拶に行った。
長年ハプスブルクに尽くして来た自負があるのだろう。
「今後は、ハプスブルクの終焉も時間の問題だろう」と捨て台詞を残しホーフブルクを後にした。
メッテルニヒは夫人を伴い、知人を頼りに、一文無しで、命からがら何とかロンドンへ亡命をする。
余談だが、メッテルニヒは亡命後、ロスチャイルド家の援助を受け、その数年後、再びハプスブルクへ戻り陰ながら宗家をささえる事となる。
さて、メッテルニヒが去り、慌てたのは皇妃マリア・アンナだ。
皇妃は考え直す様フェルディナント帝の部屋に急ぐ。
「陛下、メッテルニヒをお引き留め下さいまし。今なら間に合います!」
しかし、フェルディナントは皇妃の訴えなど聞いていない。
既に他界していた姉マリー・ルイーゼの写真に向かって平然と言う。
「姉さん、僕はやったよ!姉さんの仇を討ったんだ」
「……?」
「姉さんがナポレオンの所に嫁に行く時、皆で悲しんだよね。メッテルニヒが姉さんをナポレオンに売ったんだからね。僕はまだ小さかったけど、よく覚えている。姉さんがあと3ヶ月生きていたら、きっと喜んだのになぁ…」
フェルディナントの言葉を聞いて皇妃は唖然とする。
「いや、いや、それは分かったから。それに、今はそれどころじゃないでしょっ! 誰がこの家の舵取りをするのよっ! アナタには無理じゃありませんかっっ!!」皇妃の言葉さえ、フェルディナントには届いていない。
この夜の出来事は、側近によって、まだ未成年で会議に出られなかったフランツ・ヨーゼフにも伝えられた。
つづく