竹内結子さん コロナ禍で家族と向き合い「自分の人生をもう少し大事に…」と語ってい…

 人気女優の竹内結子さんが死亡した(享年40)。現場の状況から自殺とみられている。9月27日(日)午前2時ごろ、東京 渋谷区の自宅マンションの部屋で、亡くなっているのを家族が見つけたという。

 7月には、俳優の三浦春馬さん逝去の報に接したばかりである(享年30)。

「文春オンライン」では当時、明星大学心理学部心理学科准教授で、芸能人のカウンセリングも行う臨床心理士の藤井靖氏に話を聞いた。

© 文春オンライン 竹内結子さん ©文藝春秋

 類い希なる才能に恵まれた三浦さんや竹内さんのような俳優が、なぜ自死という選択をしてしまったのか。「芸能人という特殊な職業は、孤独に陥りやすい条件が揃っている」と藤井氏は分析。藤井氏は複数の芸能事務所と契約し、実際に芸能人のカウンセリングも担当している。芸能人が陥る孤独は、私たち一般人のそれとはどのように違うのだろうか。

 

 藤井氏のインタビュー記事を一部編集の上、再公開する。(初出8月1日、日付、年齢、肩書きなどは公開時のまま)

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とりわけ特殊な芸能人の心の問題

「自殺に結びつきやすい精神疾患というと、うつ病や統合失調症、依存症、パーソナリティ障害などがあります。しかし三浦さんに関していえば、報道やインタビューなどを見ている限りでは診断名がつくような疾患を抱えていた可能性は限りなく低いのではないか、という印象を受けました。

 

 私は精神疾患や障害など診断名がつく方だけではなく、不登校やいじめ、引きこもりなど診断名がつかないけれども心に深い悩みを持っている方をカウンセリングしています。私は複数の芸能人の方のカウンセリングも担当してしますが、不調を訴える芸能人の方の多くも、その“診断名がつかない”というカテゴリーに含まれることが多い。診断名がつかない方が抱える心の問題は人それぞれですが、芸能人をはじめ著名人の方の問題はとりわけ特殊です」

(藤井氏、以下同)

「『ウソの笑顔』を作り、毎日ウソをつくのが苦痛だった」

 三浦春馬さんは7月18日、港区の自宅マンションで首を吊っているのがマネジャーによって発見され、その後死亡が確認された。前日は普段通りにドラマ撮影をこなし、当日も同じ現場に入る予定だったという。

 

「芸能人は好きなことを仕事にして、ファンがいて、お金をたくさん稼いでいて、傍からだとキラキラして見えます。しかし内心には、深い『精神的孤独』を抱えていることが多いのです。

 

 孤独というと、一般的には他人との社会的な関わりが断絶され、ひとりぼっちでいる状態を想像すると思いますが、これは『物理的孤独』といいます。そしてこういう状態であっても、精神的に充足している人は少なからずいる。一方、『精神的孤独』は周囲に人がたくさんいて多くの人に愛されていても、心が孤独を感じること。周囲が気づかないことも多く、知らない間に当人は孤独から心を病んでしまうことがあるんです」

 

「週刊文春」8月6日号 では、三浦さんが遺した日記の一部が報じられている。そこには《僕の人間性を全否定するような出来事があり、たちまち鬱状態に陥り、自暴自棄になった》《仲の良い人に会うときに「死にたい」と思っていることを悟られたくなかった。「ウソの笑顔」を作り、毎日ウソをつくのが苦痛だった》などと綴られている。

 

誰にも相談できない「精神的孤独」

 藤井氏は、三浦さんの自殺の理由を「報道などから推測するしかありませんが」と前置きしたうえで、「芸能人はその職業の特殊性から精神的孤独に陥りやすい」と説明する。

 

「私の患者さんには女優のAさんという方がいらっしゃいます。初めて私の元へいらっしゃったとき、彼女も深い精神的孤独に陥っていました。彼女は名前の知られた人気女優ですが、『啓蒙のためになるなら』とAさんのケースをお話しする許可をご本人と事務所からいただきました。なお通常、カウンセリングには厳格な守秘義務が課せられていますので、本人に許可なくお話しすることは絶対にありません」

 

 

 女優であるAさんが藤井氏を訪ねたのは、常備薬をひと瓶飲んで自殺を図り、仕事に穴を空けてしまったことがきっかけだったという。

 

「Aさんはそれまで悩みを誰にも明かさず、自分だけで抱え込んでいました。しかし仕事を休んだことで事務所から問い詰められ、その時に初めて気落ちや不眠、食欲不振に悩んでいることを打ち明けたそうです。そこで初めてマネジャーが彼女の苦悩に気がつき、カウンセリングが必要だ、となったのです」

 

 当時、Aさんは恋人との結婚を事務所に反対されていた。

「しかし、Aさんに相談ができる人はいませんでした。地方出身の彼女は都内で一人暮らしをしていて、地元の友人とは物理的距離があった。それに『事務所に結婚を反対される』ことは芸能界ではよくあることかもしれませんが、一般的な悩みではないので、業界外の友人には相談しにくい。もちろん、事務所から結婚を反対されていたのでマネジャーに相談することはできませんでした。芸能人仲間にも言えなかったそうです」

 

「理解してもらえない」増していく孤独感

 三浦さんも城田優や三浦翔平ら、芸能界の友人も多かった。だが、一方で インタビュー では、「僕は思ったことをわりと抱え込んでしまうタイプ」と自己分析している。

「芸能人は“唯一無二”になりがちな特殊な職業です。事務所との関係やイメージ戦略、CMクライアントの有無などによって、彼らが置かれる立場は十人十色。そのため抱える悩みもその人固有のものになりやすく、親や友人だけでなく仕事仲間に悩みを相談しても共感してもらいづらいんです。また同じ業界の友人は時にライバルにもなるわけで、無意識に『弱みを見せたくない』という発想にもなり得ます。

 また、皮肉なことに人気が出れば出るほど、芸能人は孤立していきます。ファンが増えるということは、相対的に自分を理解していない人が周りに増えるということ。そうすると『理解してもらえない』と感じることが増え、悩みがあっても内にため込むようになり、精神的な孤独感が増していく。これは大きなリスクです」

 

俳優という“演じる職業”は要注意

 Aさんも1人で悩みを抱え、苦悩を深めていた。藤井氏はカウンセリングを通して、Aさんの「事務所に結婚を反対されている」という悩みの奥に、さらに根深い問題が隠れていることに気が付いたという。

 

「彼女は仕事とプライべートを切り替えられないことにも悩んでいました。公私の切り替えはリモートワークなどが進んだ現在では、多くの人が抱えている悩みですが、芸能人の場合はそれが極端に難しいんです。

 

 芸能人の方々は、真面目であればあるほど、私生活でもファンの期待を裏切らないように“芸能人”であろうと努力します。私生活でもハメを外すことはなく、常に人の目を意識した生活を余儀なくされます。そうすると、次第に芸能人と素の自分の境目が曖昧になっていってしまいます。

 

 特に俳優という“演じる職業”は要注意です。作品のたび、役柄に深く入り込むことで、自分の輪郭がよくわからなくなってしまうことがあるんです。三浦さんも天才的な才能を発揮し、役柄ごとに印象がまったく違う演技をしていました。そういった方は特に、自分自身のベースを保てなくなってしまうんです」

 

仕事への意見が本人に対する存在否定に感じられる

 Aさんも人気の高さゆえに仕事の依頼は途切れることがなく、次々に違った役柄に没入し、演技をしている状態と素の自分を切り替えられなくなっていたという。

 

「シリアスな役を演じると精神状態もそれに引っ張られるような、常に仕事モードの状態でした。これは精神的な過重労働です。過労死や過労自殺のリスクファクターとして、労働時間が長いことと仕事上の裁量がないことが挙げられますが、俳優の仕事はその最たるものと言えます。決められたスケジュールのなかで与えられた台本を覚え、際限なく仕事に身を投じていれば、追い詰められる場合があるのも当然です。そしてAさんはこの過酷な状態が続いたことで、深刻な問題に発展していました。認知に“歪み”が生じていたんです」

 

 Aさんの元には仕事が次々に舞い込み、名実ともに人気女優の道を歩んでいたが、本人が見ている世界は違った。彼女は藤井氏に対しては、「私は演技が下手」「必要とされていない」と吐露していた。

 

「AさんはSNSで繰り返しエゴサーチをしていました。もちろん好意的なコメントも多いのですが、そのなかにある少数のアンチコメントに過剰に反応して、そのたびにひどく落ち込んでいました。

 

 芸能人の“売り物”は自分自身です。そのため仕事への評価がその人自身の存在価値に直結してしまう傾向があります。本人がよほど強くない限り、仕事として『○○さんの演技が好き・嫌い』という評価を、『○○さん自身が好き・嫌い』という評価として受け取ってしまうようになる。そのため仕事ぶりへの意見であっても、本人からすると存在を否定されたと感じることもあるんです」

 

 

「芸能人にとって“逃げる”という選択肢はあまりにハードルが高いんです」

 Aさんは投薬治療が必要なほど精神的に追い詰められていたが、仕事を休むことはなかった。周囲はもちろん、本人すらそれを望んでいなかったからだ。

 

「芸能人の仕事は代替不可能なことが多いんです。CMにしてもドラマにしても、メインの役は代役を立てるのが非常に難しい。それに降板すること自体が、当人の新たなストレスになることもあります。

 

 当時のAさんにとって、『仕事=自分の価値』でした。仕事で追い詰められる一方で、仕事をすることで自分が必要とされている実感を得て、救われてもいました。そんな状態にある人に対して『あなたの代わりはいくらでもいるから休んでいいよ』なんてことは言えません。芸能人にとって“逃げる”という選択肢はあまりにハードルが高いんです」

 

ネガティブな思考から脱却し、良い循環を作るためには

 藤井氏は「だからこそ芸能人には日ごろからのメンタルケアが重要」と訴える。

 

「私は現在、複数の芸能事務所と契約しカウンセリングを担当していますが、業界にはまだ『所属タレントの精神状態なんてリスクのある情報を外部に出したくない』という事務所も多い。精神的孤独の芽が小さいうちに取り除くことを意識しないと、取り返しのつかないことになってしまうこともあります。

 

 例えばAさんのように不当に自己評価が低い人に対しては、認知再構成法という手法が有効です。『必要とされていない』『演技が下手』という人に対して、『じゃあなぜ仕事が来るんだろうね』と問いかけ、現実を正しく認識する練習を繰り返すんです。すると、自分自身への見方が変わってきて、ネガティブな思考から脱却することができるようになっていきます。性格は変えられないことが多いですが、認知は変えられますから。

 

 あとは仕事の時間を決めること。この時間に台本を覚えて、この時間になったら家に帰りましょうというようなことを具体的に決めていく。当たり前のことのようですが、追い詰められている人は生活の中での時間的戦略がなかなか立てられないものなんです。時間を構造化して取り組んでも、パフォーマンスが落ちないことを実感できれば良い循環になっていきます」

「誰かに『助けて』って言うこと、それも勇気」

 現在、Aさんの精神状態は回復してきているという。

「Aさんは、落ち込んでも『この精神状態は役柄に引っ張られているのではないか』『仕事への批判を存在否定のように受け取ってはいないか』ということを分析できるようになっています。また、仕事とプライベートを時間で区切れるようにもなりました。今はかなり落ち着いていらっしゃいますよ。

 自分の苦しみを客観的に見つめることで、周囲の人に助けを求めやすくなったこともよかったですね。事務所やマネジャーにもカウンセリング内容を差し障りのない範囲で共有しているのですが、そうすることで周囲もAさんの悩みを理解し、サポートしやすくなってきたようです。“人薬(ひとぐすり)”という言葉がありますが、人を癒すのはやはり人ですから」

 三浦さんは2020年4月7日に「めざましテレビ」(フジテレビ系)に出演した際、20代へのアドバイスとしてこんなメッセージを送っている。

《誰かに「助けて」って言うこと、それも勇気》

 藤井氏は「相談ダイヤルでも周りの信頼できる誰かでもいいので、まずは1人、できれば3人、自分の気持ちを打ち明けてみてください。『自分の気持ちなんて話せない』という方も多いと思います。でも一歩でも踏み出せば、確実に自分自身の心が楽になるはずです」と話す。

 「精神的孤独」はあくまで一時的な状態でもあり、治療が可能なのだ。

 

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【悩みを抱えた時の相談窓口】

「日本いのちの電話」

▽ナビダイヤル「0570-783-556」午前10時~午後10時

▽フリーダイヤル「0120-783-556」毎日:午後4時~午後9時、毎月10日:午前8時~翌日午前8時

 

(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))