★1914年ビュイック 100年前のBUICKカタログ ~ 自動車カタログ棚から 201 | ポルシェ356Aカレラ

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★2014年のスタートということで、今年最初の「自動車カタログ棚から」は今からちょうど100年前の1914年(大正3年)の自動車カタログをご紹介します。
1914年というと、海の向こうでは第1次世界大戦が勃発しチャップリンが映画デビュー、日本では東京駅が開業し宝塚が発足し芥川龍之介が作家デビューした年に当ります。

★世界の自動車ブランドの中でベンツ(1886年)、プジョー(1889年)、ルノー(1898年)、フィアット(1899年)に次ぐ歴史を持つのがアメリカ車「ビュイック」(Buick)。ビュイックはキャデラックに次ぐゼネラルモーターズ(GM)の看板車種として現在でも製造・販売されています。
ビュイック・モーター・カンパニーの設立は1903年ですが、それより4年前の1899年に事業が開始されています。アメリカ車ではキャデラックが1902年、フォードが1903年と大体同じような時期にスタートしていますが、ビュイックのスタートを1899年とすればアメリカ車の中でも最も古いブランドということになります。既に100年を大きく超える歴史を持つビュイックについては日本語で書かれた体系的な歴史資料が見当たらず、今回ご紹介する1910年代の車両についてはカタログに書かれた情報以外のことがよく判りません。歴史が長いだけに、もしビュイックだけを研究したとしても一生の仕事になるだろうと思います。全年式のビュイックのカタログを集めることはアメリカ本国版に限ったとしてもまず不可能に近いでしょう。1955年デビューのトヨタのクラウンあたりなら頑張れば全てのカタログを集めることも出来そうな気もしますが(それでもこれから遡って全て集めるとなると相当に大変です)、ビュイックとなると何と言っても歴史が長過ぎます。なお、これまでに私の一番好きなビュイックである1959年式について本シリーズ第91回でご紹介しています。

★アメリカ車ビュイックが日本に初めて輸入されたのは1915年(大正4年)のこと。
現在のヤナセの創業者である梁瀬長太郎氏( 1879年12月15日-1956年6月11日)が設立した梁瀬商会が輸入し、当時の大財閥、政府機関、華族、宮様といった限られたユーザーを対象に販売されました。1910年代半ば、既にアメリカではT型フォードにより大衆への自動車の普及(=モータリゼーション)が始まっていましたが、海を越えた大正の初めの日本では自動車を所有するということは、恐らく現在の感覚に置き換えるなら自家用セスナ所有のレベルでなく航続距離の長い自家用ジェット機を所有する位に相当し、庶民にとっては高嶺の花というよりは端から自動車を買うことを想像さえもしない時代だったのではないでしょうか。そのような自動車の需要が限られていた時代に梁瀬商会が配布したカタログは現在の自動車カタログと比較すれば非常に数は少なかったと想像されます。それでも納車先の旧華族の家などに長年残っていたものが古書・古物ルートに流れて稀に市場に出回ることがあります。今回ご紹介するカタログは殆どが英文のアメリカ本国版ですが、梁瀬関係の資料と一緒に見つかったことから、戦災を逃れ約100年間、日本国内で生き残ってきたものだと思われます。

★人の命は残念ながらモノの命より遥かに短いものです。
今回ご紹介する約100年前のカタログも現時点では紙の劣化が殆ど見られないことから(元々、紙の質も良いようです)、丁寧に上手く保存すれば1000年経っても残っているかもしれません。しかし、約100年前にカタログを配布した梁瀬商会のセールスマンもカタログを貰った人も勿論遥か昔に他界されていることでしょう。今回ご紹介するカタログが縁あって私のカタログ棚に来てからでも既に20年程度経ちますが、私がもし100歳まで生きたとしてもカタログはまだまだ生き延びますから、私はあくまで生きている間だけカタログの一時預かりをしているということになります。自動車史研究の第一人者だった五十嵐平達氏がカタログを始めとする膨大な史料をトヨタ博物館に寄贈されたことは有名ですがコレクションが散逸しない賢明な方法だったと思います。それが何であっても時を経た貴重なモノが手元にある場合、モノの命を大切に思うなら自分がいなくなってからのことも一応考えておく必要があるように思います。


【主要スペック】 1914年 ビュイック2ドア ロードスター (Buick Model Ex-24) 
全長,全幅,全高: 不明・ホイールベース2667mm(105in)・車両重量1089Kg(2401Lb)・FR・水冷4気筒OHV2715cc(165.679cu)・最高出力22.5~30H.P.・変速機3速MT・乗車定員2名・最高速:不明・アメリカ国内販売価格950$



●1914年 ビュイック Model EX-24/EX-25 専用カタログ(縦27×横20.5cm・英文36頁)
Buick Motor Company 発行。恐らく梁瀬商会が輸入開始時に使ったと思われるカタログ。表紙・裏表紙を広げると1枚の絵になるという後年のカタログでもよく見られる手法。この年のビュイックには、24・25・35・37・55とグレードがあったうち、いわばエントリーグレードと思われる24と25の専用カタログ。1914年のビュイックはトータルで21,217台(月産1800台程度)が生産されたという。カタログはアート紙が使用され100年を経ても殆ど劣化が感じられない。
14年表紙
中頁から:扉には1914の印字
14年1中扉1914アップ
14年2中扉
このカタログの10年程前にライト兄弟により初めて飛んだ飛行機がバックに描かれた迫力のイラスト。ビュイックは黎明期のインディなどのモータースポーツで活躍した。
14年3中レースイラスト
14年4中説明
モデルEX-24
14年5中24(1)
14年6中24(2)
14年7-2中リア24
モデルEX-25
14年7中25(1)
14年8中25(2)
14年9-2中リア25
ビュイック愛用者:10年前の1904年式ビュイックも未だ使用されている。
14年9中愛用者1904年式
モータースポーツでの幾多の活躍
14年10中レース(1)
14年11中レース(2)
部品運搬用Buick専用貨物列車
14列車正
スペック掲載頁
14年12中スペック(1)
14年13中スペック(2)



●1915年 ビュイック6気筒車 専用カタログ(縦28×横22cm・英文28頁)
この年からボンネットが丸味を帯びたプレスとなった。女性ドライバーが描かれた表紙絵が魅力的。このカタログもアート紙使用で経年劣化が見られない。
15年表紙
中頁から
15年1中(絵)
2人乗りロードスター
15年2中ロードスター
5人乗りツーリング
15年3中ツーリング
スペック掲載頁
15年4中スペック



●1917年 梁瀬商会 自動車型録 (縦22×横15cm・日本語56頁)
表紙下に1917の印字。判型は小さいが分厚いカタログ。ビュイックと英車ウーズレーの2車が掲載されている。この時代、既に型録=カタログという言葉が使われている。このカタログでのBuickの日本語表記は「ビック」。
17年表紙
中頁から
7人乗りリムジン(箱型)
17年1中リムジン
5人乗りフェートン(幌型)
17年2中フェートン
病院用自動車: 日本の救急車としては極く初期のもの
17年3中救急車初期
1916/1917年式ビック号自動車愛用者芳名抄録・・・有栖川宮家・日本郵船・三菱造船・農商務省など
17年4中愛用者名簿



●1918年 ビュイック6気筒車 専用カタログ(縦27.5×横21.5cm・英語/日本語併記16頁)
梁瀬商会発行。本国版を元に一部国内撮影と思われる写真を追加したカタログ。日本語解説入りだが文語調の説明はさすがに時代を感じさせる。6気筒車のModel HX-44とHX-45の専用カタログ。型式名のHXは輸出専用車両を示し通常は「H-44」「H-45」となるようだ。このカタログでのBuickの日本語表記は1930年代まで使われた「ビウイク」。
18年表紙
中頁から
扉頁にはYANASE&COMPANYの印字
18年1中梁瀬扉頁
7人乗りリムジン
18年2中リムジン
5人乗りツーリング
18年3中ツーリング
2人乗りロードスター
18年4中ロードスター
文語調の日本語解説
18年5中日本語解説
スペック掲載頁
18年6中スペック
梁瀬商会東京本社のほか大阪・名古屋・博多・京都・秋田・横浜の支店が記載されている。
18年7中梁瀬支店一覧



 

★オマケ(その1): チャップリン 短編映画「ヴェニスの子供自動車競走」(Kid Auto Races at Venice) 1914年・Charles Chaplin
100年前とは思えない鮮明な映像をお楽しみください。当時実際に行われていたジュニア自動車レース会場で撮影されたとのこと。この時代、既にモータースポーツが盛んだったことが判ります。



★オマケ(その2): ビュイック・ヒストリー Buick - History Documentary  (1995年製作)
長い上に字幕なしなので全部観るのは大変です。24分40秒あたりに今回ご紹介した1914年式あたりのビュイックが登場します。



★オマケ(その3): HotWheels 1951年ビュイック「LeSabre・Concept Car」 
全長8cm。オマケにモデルカーがないのは寂しいということで、カタログの存在しないビュイックの有名なショーカーのミニカーを1台。当時モノでは米澤玩具から出来の良いモデルが出ていた。
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