【作品#0641】疑惑の影(1943) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

疑惑の影(原題:Shadow of Doubt)

【概要】

1943年のアメリカ映画
上映時間は108分

【あらすじ】

ニュートン家にエマの弟チャーリーが突然訪ねてくる。姪で叔父と同じ名前のチャーリーは叔父のチャーリーを尊敬しておりその訪問を歓迎する。ところが、政府の調査員が一家の調査にやって来ると、叔父のチャーリーはその調査を避けるようになる。

【スタッフ】

監督はアルフレッド・ヒッチコック
音楽はディミトリ・ティオムキン/チャールズ・プレヴィン
撮影はジョセフ・ヴァレンタイン

【キャスト】

テレサ・ライト(チャーリー・ニュートン)
ジョセフ・コットン(チャーリー・オクリー)
ヘンリー・トラヴァース(ジョセフ・ニュートン)
ヒューム・クローニン(ハービー)

【感想】

アカデミー賞では原案賞にノミネートされ、監督したヒットコックは本作をお気に入りの作品として挙げていたそうだが、興行的には失敗した作品である。また、ヒッチコックはチャーリー役にはジョーン・フォンテインやオリヴィア・デ・ハヴィランドを希望したが叶わず、脚本を読んでいなかったテレサ・ライトへヒッチコックがプロットを説明してその場で出演が決まったようだ。ちなみに、本作はヒューム・クローニンの映画デビュー作となった。

本作は姪のチャーリーが日々の生活を退屈に感じており、それを解消させる救世主として叔父のチャーリーがやってくるという展開になっている(チャーリーが2人いるので以下「姪のチャーリー」「叔父のチャーリー」と表記)。姪のチャーリーは父親に対して家族の絆が欠けていることに文句を言うが解決策は見出だせず救世主が現れるしかないと考えている。その叔父のチャーリーはニュートン一家に来るなり、姉や姪のチャーリーから大歓迎される。彼女たちがなぜこんなにも叔父のチャーリーを慕っているのかは説明がなく、「そういうものなんだ」ということで話は進んでいく。

にしては、人前で平気で嫌味を言う叔父のチャーリーに対して、姪のチャーリーも彼女の母親で叔父のチャーリーの姉もそこまで気にしていないのは気がかりだ。また、もう大人とも言える姪のチャーリーが叔父のチャーリーと手を繋いだり、近い距離感で接したりしているところを見ると、何か勘繰りたくなるものがある(一応そういう関係は全く無いようだ)。

ところが、映画の冒頭にチャーリーはどうやら良からぬことをしたようで逃げるようにこのニュートン一家にやってきたことが分かる。後に3人組の犯罪者が逃げており、その犯罪者の1人が叔父のチャーリーではないかという話になっていく。冒頭の場面こそ「チャーリーは犯罪者だ」と断言するような描写ではないのだが、この描写が観客にだけ提示されることでミステリーとしての面白さは削がれたように思う。

叔父のチャーリーは徐々に怪しい行動をして、姪のチャーリーは「何か隠し事があるんじゃないか」と疑い始める。そして、このニュートン一家には政府の機関が一般的な家庭の調査と称して2人組の男がやってくる。その男たちはニュートン一家にインタビューしたり家の中の写真撮影をしたりするが、「写真を撮られるのは嫌いだ」と言う叔父のチャーリーはそれに協力しようとしない。

そして、調査員の1人ジャックがその晩に街を案内してほしいという姪のチャーリーを指名して、彼らはデートすることになる。そこでジャックは自分が警察官であることを明かし、叔父のチャーリーが犯罪者かもしれないと説明する。ここで素性を明かすのも早いと思うが、もしここで「叔父のチャーリーが犯罪者かもしれない」という描写を入れるなら、やはり冒頭の場面こそ削除しても良かったんじゃないかと思う。

姪のチャーリーが冒頭に言っていたように「家族の絆を大事にする」というのがテーマなら、何もせずにただ父親を詰っていた彼女が、真相を明らかにすれば家族が崩壊するという危機を「黙っておく」ことで救うことになるんだから、なるほどと思わせる結末にはなっている。ただ、これによって家族の絆が結束されたわけでもないし、彼女は偶然襲いかかってきた危機に対して、「真相を明らかにして母親を精神的に追い詰めるか、真相を明らかにせず今までの状態を悪化させないか」の2つを天秤にかけて後者を選択したに過ぎない。確かに彼女は積極的に真相を調べようとする場面もあるのだが、最終的に彼女は家族の絆をより強くするために何か成長したようには見えない。

しかも、ラストで姪のチャーリーを殺そうとした叔父のチャーリーは誤って列車から転落するという結末になっており、非常に間抜けに見えてしまう。この呆気なさも当時の「味」なのかもしれないが。

さらに、その前日には叔父のチャーリーは街に寄付をしており、それによって街では善良な市民と思われている。姪のチャーリーは真相を明らかにしないことで、叔父のチャーリーを「善良な市民」のままにしたのだ。これによって精神的に不安な母親を追い詰めることもなくなったわけだ。

また、そのラストには出会ってすぐに結婚の話を持ち込んできた早急な警官のジャックが姪のチャーリーを慰めている。当初は叔父のチャーリーを慕っていた姪のチャーリーが、あらゆる意味で叔父のチャーリーを亡くし、失意の姪のチャーリーにとって、新たな希望の存在であるジャックが充てがわれているように思う。悲劇の起こった主人公に対して、ラストで新たな男性(警官)が現れるというような展開は、ヒッチコック映画でいえば「サボタージュ(1936)」と非常によく似た展開である。

本作で描きたかったテーマに対して、主人公の取る行動は間違っていないように思う。ただ、それに至るキャラクター設定や演出はやや残念である。特にもう1人の容疑者が死んだ話を姪のチャーリーの父親とその友人ハービーが話しているところを2人のチャーリーが聞いてしまうところは、明らかに「作った」感があり、どう見ても不自然でしかない。批評家からも非常に評価の高い作品だが、そこまで大したことがないと感じたのが正直なところだ。

 

 

 

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