【作品#0248】ツーリスト(2010) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

ツーリスト(原題:The Tourist)

 

【概要】

 

2010年のアメリカ/フランス/イタリア/イギリス合作映画

上映時間は103分

 

【あらすじ】

 

警察が監視の目を光らせるエリーズは、カフェで恋人のピアースから手紙を受け取り、その手紙の指示通りに、リヨン駅発ベニス行の電車に乗り込む。エリーズは、ピアースに似た体格の男と仲良くし、追手にその男をピアースだと思わせる作戦を取ることになり、フランクというアメリカからの旅行者と同席する。

 

【スタッフ】

 

監督はフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク

脚本はフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク/クリストファー・マッカリー

音楽はジェームズ・ニュートン・ハワード

撮影はジョン・シール

 

【キャスト】

 

アンジェリーナ・ジョリー(エリーズ)

ジョニー・デップ(フランク)

ポール・ベタニー(アッチソン警部)

ティモシー・ダルトン(ジョーンズ警部)

ルーファス・シーウェル(ローレンス)

 

【感想】

 

フランス映画「アントニー・ジマー(2005)」のハリウッドリメイク。監督は「善き人のためのソナタ(2005)」でアカデミー賞外国語映画賞を受賞したフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルクが初めてハリウッドでメガホンを取ることになった。フランク役はトム・クルーズやサム・ワーシントンが、エリーズ役はシャーリーズ・セロンが演じる予定もあったそうだが、最終的にジョニー・デップ、アンジェリーナ・ジョリーというスター初共演という形で落ち着いた。ちなみにジョニー・デップが演じた役はオリジナル版でイヴァン・アタルが演じており、「M:I-2(2000)」などの4作品でトム・クルーズのフランス版吹替を担当している俳優である。

 

1億ドルという大型予算を任された若いドナースマルク監督だが、撮影が始まると主演の2人に主導権を握られ、思ったように映画作りができなかったようだ。案の定、批評家からは酷評されたものの、世界的には2億5千万ドルとそこそこのヒットを記録した。

 

「北北西に進路を取れ(1959)」や「シャレード(1963)」といった往年のハリウッド映画を意識していることは設定や演出から何となく想像することはできる。ちょっと緩めのテイストが含まれているのも狙いだと思うが、映画を見終えてから振り返ると、これだったらもっとコミカルでも良かったんじゃないかと感じる。ちなみに宣伝ではシリアスさを売りにしていたのに、ゴールデン・グローブでは作品賞、男優賞、女優賞ともに「コメディ/ミュージカル部門」でノミネートされたことは嘲笑の的になってしまったらしい(仮にこの部門であってもノミネートされるほどの作品や演技には見えなかったが)。

 

また、ベースはシリアスの割に、敵の追っ手は粒ぞろいのポンコツたち。どれだけ追いつめても計算していたかのように逃してしまう。それは冒頭のエリーズを監視して追跡する場面からそうである。5~6人はいるのに、エリーズ1人捕まえることができず、バンから降りた男3人はエリーズと目まで合っている。また、エリーズはカフェで受け取った手紙をその場で燃やして処分するのだが、諜報員である彼女がカフェで紙を燃やすといった目立つ行為をするわけがないし、その燃やした手紙を警察が鑑識に回して解読できて、彼女の乗る電車に警察が間に合うならこの燃やすくだりもエリーズを追いかけて逃げられるくだりもいらないんじゃないか。この辺りの描写をすべてぶっ飛ばして、謎の女性が電車に乗り込んでフランクに声をかけるところから始めた方がミステリーとして雰囲気も出せただろうに(オリジナルでは警察が追いかけて云々のくだりはない)。序盤から観客にミスリードのものも含めて情報を与え過ぎだと思うわ。

 

それから、オリジナルにはアクションシーンはほとんどないのだが、リメイクでは屋根伝いの追っかけっこや、ボートでの一連のアクションシーンが用意されている。ただ、このアクションにまるで迫力がない(ボートの場面はイタリアの警察が制限速度を越えないように監視していたとか…)。追手がポンコツな上に、アクションシーンまでポンコツである。その敵の大ボスも手下のミスに死の制裁を加えているが、ただでさえポンコツな部下を1人殺したら、他の部下へ仕事のしわ寄せが来て、またミスが起こることになるぞ。色んな意味でブラックな組織だわ。

 

そして言ってしまうと、実は「フランクがピアースでした」というどんでん返しのオチがつくことになるが、勘の良い人なら気付いたことだろう(ただ、伏線らしいものはほとんどない)。なかなか姿を現さないピアースについて本編内でほとんど触れることがないというのは致命的だ(オリジナルには序盤に映画として必要最低限の説明はあった)。他の人が語るピアースがフランクとは違うと思わせるものでかつ、後で振り返るとやっぱり同一人物かと思わせる伏線を用意できないとダメだろう。そのオチの直前でフランクがピアースである根拠を語るのだが、口で全部説明するだけでは相手に通じても観客には伝わらないぞ。また、フランクが数学教師であるという設定は割と序盤で警察が知り、そして観客にもその事実が明かされるのだが、もし警察が真相を知る展開が用意されているのなら警察が真相を知る描写はもっと後でも良いはずだ。

 

設定上、冴えない男が旅先で美女に出会い、その美女のピンチに勇気を振り絞ってとんでもない行動に出るという面白さは出せるはずだ。ただ、オチが「フランク=ピアソン」であり、ピアソンは多額の費用をかけて整形手術を受けたことになっているので、冴えない男として登場するのは無理があるし、とびっきりのイケメンであるジョニー・デップから冴えない男感は一切せず、そんな男がアンジェリーナ・ジョリーとはいえ謎の美女を追いかけるほど惚れるという筋書きは無理がある。これだったらルーファス・シーウェルとジョニー・デップの役を入れ替えた方が映画として成立していたんじゃないかとさえ思える。また、この当時のアンジェリーナ・ジョリーは「Mr.&Mrs.スミス(2005)」「ウォンテッド(2008)」「ソルト(2010)」など似たような役柄を演じることが多く、さらに序盤から観客に情報を与え過ぎているため、明らかに只者ではない女性であることが分かってしまう。その点、オリジナルのソフィー・マルソーの方が映画のヒロインとしても女優としても格段に魅力的だった。

 

ラストは結局警察が敵を全員を射殺して事件は解決することになるため、警察次第の結末にも見える。その後、どんでん返しがあるのだが、敵の射殺体が残る現場を警察が誰一人残ることなく現場を立ち去らないと、このどんでん返しは成立しない。無線に入った情報で警察官全員が別の場所に向かうことになるのだが、こちらも警察次第となっている。ちなみに、このラストでティモシー・ダルトン演じる警部が諜報員であるエリーズを解雇するが、ティモシー・ダルトンはかつてジェームズ・ボンドを演じた「007/消されたライセンス(1989)」で解雇を言い渡される場面があることを思い出す。

 

オチが分かった上で振り返っても、おかしなところだらけ。大金をかけてリメイクするほどの話でもなかった。オリジナルも傑作と言えるほどの作品ではないが、リメイクから逆算して相対的に評価が上がってしまうくらいの印象。

 

【関連作品】

 

アントニー・ジマー(2005)」…フランス映画

「ツーリスト(2010)」…上記作品のハリウッドリメイク

 

 

 

取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【配信関連】

<Amazon Prime Video>

言語
├オリジナル(英語/フランス語/イタリア語/ロシア語/スペイン語)

 

 

【ソフト関連】

<BD>

言語
├オリジナル(英語/フランス語/イタリア語/ロシア語/スペイン語)

├日本語吹き替え

音声特典

├フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク(監督)による音声解説

映像特典

├運河で語る

├舞踏会にて

├ベネチアでのアクション

├魅惑の追求

├運河から見るベネチア

├別オープニング アニメ版

├アウトテイク・リール

├予告編集