「敦賀さん……これって……もしかして……」
蓮のマンションの地下。
フロアー直結のエレベーターのあるそこは、もはやマンションの住人専用と言っても過言ではないその場所。
キョーコが云うところのセレブスーパーなその場所で、蓮はメモを見ながら次々に野菜をカゴに入れていき、最後に立ち止まったのはお肉のコーナー。
「やっぱり、これかな?」
と、松○牛の最上級なそれを選んだところでキョーコの疑惑は確信に変わった。
「まさか……すき焼き……ですか?」
「うん、そうだよ。」
マウイオムライスの時の衝撃を凌ぐ高級食材に声が震えるキョーコ……。
「……どうして……すき焼き……?」
有無も言わさず買い物を終え、エレベーターの中で独り言のように問うキョーコに対して蓮は……
「……どうしてって、君が言ったんじゃないか。
敦賀さん……すき……」
「…………っ///」
「焼き、食べたかったって。」
「……やっぱり……それですよね///」
つい先日の恥ずかしい失態を思い出し、キョーコはエレベーターの中で赤面しながら縮こまっていった。
* * *
「はぁ~~美味しかったぁ……」
最上級のお肉を堪能したすき焼きに、キョーコは大満足のため息を漏らした。
「クスッ。
コーヒー淹れるね。」
「えっ!それは私がっ!」
慌てて立ち上がろうとしたキョーコを蓮は優しく押し留めた。
「美味しいすき焼きを作ってもらったし、このくらいは俺にやらせて?」
「そうですか……?ありがとうございます//」
ダイニングテーブルからソファーへと移動した二人は、撮影のことなどを話していた。
「春にクランクインしたこの映画もいよいよ大詰めですね。」
「そうだね。
明日……大丈夫?」
明日はロケ先で延期になったラブシーンの撮影だ。
「はい……練習……しましたし、ね?///」
「…………。」
「そういえば、最初はこのソファーからでしたね……。」
「……あぁ……。」
キョーコは蓮としたラブシーンの撮影の練習のことと、明日行われる本番の想像で頭がいっぱいになってきていた。
その時ーーー
「……え?」
気がつくと、キョーコの目の前に蓮の顔が迫っていて……
それはまるで、練習の時と同じ状況。
つまりーーー
カタン……!
「かっ、片付けて来ますっ///」
キョーコは慌てて飲み終えた二つのコーヒーカップを手にして、キッチンへと駆けて行った時ーーー
ドサッ……
キョーコが足を引っかけたのか、ソファーサイドに立て掛けてあったキョーコの鞄が倒れ、中身が少し出てしまった。
それに気づかずキッチンで洗い物を始めたキョーコ。
そのキョーコの様子を見て、私物に勝手に触れるのを躊躇いながらも、蓮は鞄を起こして飛び出た中身を戻し始めた。
すると、目についたのはーーー
「………これは……?」
その色使いやデザインから、不意に思い出したのは、以前松島主任に無理を言って取り寄せてもらったDVDのパッケージ……。
嫌な予感と共に、それを手に取り、ジャケットの文字に目を向けると……
Sho Huwa
「なんで……」
どうしてキョーコが尚のCDを鞄に入れているのか……
沸々と沸き上がる感情を抑えながら、無意識に裏面を向けると……
「これは……」
それを目にした蓮の鼓動は急に大きくなり、少し震える手で中を開けた。
そして、歌詞カードを取り出し、ざっと目を通すと……
予感は確信に変わる。
「……………………。」
キュッーーー
キョーコの洗い物が終わりコックを捻る音を聞いた蓮は、慌ててそのCDをキョーコの鞄に戻した。
「…………敦賀さん?
どうかしましたか……?」
鞄が倒れことにも、蓮が尚のCDを手に取ったことにも一切気がついていないキョーコは、ただ蓮の雰囲気がおかしいことにだけ気がついた。
「いや……。
…………送るよ。」
こうして、二人のラブシーン撮影前夜が過ぎていったーーー。