翌日、学校の昼休み。
キョーコは、パンを頬張りながら昨日のことを思い出していた。
(何だったのよ、昨日のあれは!
しかも、ほぼ1年前のCDを今さら渡してきたっていうのも納得がいかないわ……)
当のCDはというと、結局聴く気にもならず、かといってゴミ箱に入れるにはそんな尚の奇行が気にかかり、そのまま鞄にしまわれたままとなっていた。
(それに、確かあれよね?
“不破尚不敗神話の始まり” がどうとかって、ワイドショーで言われてた……)
クーのホテルの部屋で見たテレビ番組を思い返していたキョーコ。
(でも、確かあの時、4曲連続でリリースしたようなこと言ってたわよね……?
じゃあ、どうしてCDは1枚なのよっ!?
どうせなら全部寄越しなさいよっ……!!)
とてもタレントどころか、女子高生とも言えない形相でパンを頬張るキョーコ。
今日も一人での昼休みが過ぎ去ろうとしていたとき……
ぬ"~~~~っ
ぬ"~~~~っ
(あ、椹さん……)
「はい、お疲れ様です。最上です。」
* * *
「……蓮、明日はいよいよあれだな。」
この日は一日雑誌の撮影やインタビューなどを熟(コナ)し、事務所の廊下を歩いていた蓮と社。
「…………。」
「まぁ、練習もしたみたいだし、大丈夫だよなっ!」
ぐふふと猫型ロボットのような声で笑う社に、蓮は返す言葉が見つからないでいた。
すると二人の前に、高く積み上がった書類を抱えた、目の痛くなるようなピンク色のつなぎを着たキョーコが現れた。
「キョーコちゃん!」
「えっ?はいっ!
あっ……!!
きゃああっっ!!」
書類で前が見えなかったキョーコは、突然呼び止められた驚きにバランスを崩したその時ーーー
「……っと。
大丈夫?最上さん。」
書類ごとキョーコを抱き止めた蓮。
「すーーみませんっっ///
っ……敦賀さん……。」
数回に分ければいいものの、横着に一度で済ませようと積み上げられた書類。
その横から顔を覗かせたキョーコ。
「キョーコちゃん、もう上がり?」
「あ、社さん。
はい、これをタレントセクションの棚に戻したら上がりです。」
抱き止められた蓮に、身体を起こされながらキョーコは答えた。
すると、何かを思い付いたように社は、
「じゃあ蓮、俺はちょっとデスクワークしてから帰るわ。
キョーコちゃん、悪いけど蓮の夕飯に付き合ってやってくれるかな?」
と、蓮の肩をぽんと叩いた。
「あ、はいっ!
お食事のことでしたら、もちろん!
不肖最上キョーコ、責任もって敦賀さんのお食事にお付き合いさせて頂きますっ!」
びしっと姿勢を正したキョーコ。
「うん。じゃあ、よろしくね。
蓮、お疲れー。」
「はい、お疲れ様です……。」
唐突に仕組まれたことに腑に落ちない蓮だが、もちろん悪い気はするはずもなく……
「じゃあ、最上さん、半分手伝うね。」
と積み上がった書類を手に取った。
「そんなっ、悪いですっ!
敦賀さんにラブミー部のお仕事なんてっ!」
慌てたキョーコだったが……
「手伝う代わりに……
夕飯、お願いしてもいいかな?」
* * *
二人で書類を抱え、タレントセクションでラブミー部の仕事を終えた所で、
「おー、最上くんありがとう!
と、蓮じゃないか。」
椹に呼び止められた。
「はい、お疲れ様です。」
「おお。ちょうどあれだな。
確か……明日くらいだっけ?例のシーンの撮影は……」
近くの卓上のカレンダーを手に取りながら話す椹。
「そうですね。」
「まぁ、最上くんの初ラブシーンの相手役が蓮で良かったよ。
まだマネージャーも付いてない、しかも未成年の最上くんのことだ。
どこぞの変な役者と揉めるような撮影になってはいけないからな。
その点、蓮なら安心だ。頼んだよ。」
「はい。」
二人の会話を聞きながら、何となく居たたまれない気持ちのキョーコ。
「でも、最上くんもオファー受けてくれて良かったよ。
初めは無理だって言って、ここで大絶叫していたもんな?」
ははっと笑いながら、初めてオファーの話をしたときのことを思い出しながら話す椹。
「椹さぁんっ///」
「……ぷっ……」
慌てふためくキョーコの様子に、ついその大絶叫を想像してしまった蓮は思わず噴き出した。
「敦賀さんまでぇっ……///」
「んじゃまぁ、撮影頑張ってくれよ!」
そのまま、はははっと笑いながら椹はデスクへと戻って行った。
「もうっ///」
「でも、本当に良かった。
相手役が最上さんで。」
そう言ってにっこりと神々スマイルを見せる蓮に、キョーコの中のあと残り何匹かという怨キョ達が防護服を着ながら必死に干上がらないように耐えていたのであった……。
⇒ Intertwined love (40) へ続く