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21世紀のポップ中毒者

映画や音楽など、ポップ・カルチャーに淫しがちなエディターのブログ

$21世紀のポップ中毒者

デイヴィッド・リンチが本格的な歌手でデビューを果たした『グッド・デイ・トゥデイ/アイ・ノウ』のライナーノーツを執筆しました。

年末に予定されていた独占電話インタヴューがドタキャンとなり、1月26日発売という事情もあり、原稿は、これまでの研究の蓄積と、英『ガーディアン』誌、BBCのジェイソン・ソロモンズ氏の取材を基に書き上げました。

ところが、年明け、急にインタヴューのOK! が出て、短い時間ながら、通訳のジョージ・ボッドマン氏の凄腕により、実り豊かな話を聞くことができました。

その成果は、『TV Bros.』(2月14日~3月4日号、総力☆特集 東山アキコ号)の音楽ページに掲載されています。

リンチ初のエレクトロニックなダンス・ミュージック「グッド・デイ・トゥデイ」がイビサのクラブ・ピープルを踊らせた奇跡、なぜジャケットを自分で手がけずにコクトー・ツインズをはじめ4ADレーベルのアートワークで有名なヴォーン・オリヴァーに依頼したのか? 誰とどういう機材を使って作ったのか? フル・アルバムの予定はあるのかなどなど、ライナーノーツでは突っ込めなかった領域に踏み込んで書いておりますので、明日、3月1日(火)、店頭から姿を消す前に、ご興味がある方はぜひ!

 いよいよ、来週の火曜日、2月8日、『ニッポン語の革命家たちの、文体レッスン。』の第1回――近田春夫さんをゲストにお呼びする夜が、西麻布<新世界>で開催されます。


 このトーク・セッションには、いくつかの偶然が重なりました。
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 まず、事務所の引っ越しのために、蔵書の整理をしていたら、レーモン・クノー著『文体練習』(1947)が目にとまったのです。クノーのことは、ルイ・マル監督作『地下鉄のザジ』(1960)の原作となった小説(1959)でその存在を知った自分ですが、のちに、セルジュ・ゲンスブールの兄貴と言って良いボリス・ヴィアンも参加したアート・ムーヴメント“パタフィジック”のメンバーでもあることも分かりました。菊地成孔さんが「全日本冷し中華連盟は、日本のパタフィジックである」という名言を残していますが、それは、また別の話……


『文体練習』は、“ある日、バスの中で起こったケンカと、その騒ぎを起こした本人を2時間後に駅前で見かける”というシンプルな事実を、メモ、アナグラム、コメディ-、哲学的、英語かぶれ、女子高生、動物たち…….と99通りの文体で書いたキックの強い、知覚の扉を開ける書物です。1996年、朝日出版社から朝比奈弘治氏の名訳により、僕もやっと楽しむことができました。


 あとがきの中で、朝比奈氏は――さてこのような無謀な「翻訳」の試みを通して感じたものは、「自分の」無力さではあっても「日本語の」無力さではなかった。「ことばの壁」にぶつかって進退きわまることもしばしばだったが、ひねくりまわしているうちにどこかに迂回路が見つかって「やれば何とかなるものだ」という思いをすることも多かった。その意味でこの翻訳の作業は、訳者にとってはフランス語以上に日本語を探検する良い機会になった。日本語は相当に奥の深い柔軟なことばである、というのが訳了後の実感である。――とお書きになっています。
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 そして、何年ぶりかに、近田春夫さんとプライヴェートでお食事した際に、すでにビールがけっこう入っていたので、どういう流れでそういう話になったかは忘れてしまいましたが、近田さんが少年の頃、テレビで初めて植木等が「ハイそれまでョ」(1962)を歌うのを観たときに、“川勝さあ、俺、放送事故だったと思ったんだよネ!”とうれしい話が出ました。僕が、“近田春夫とハルヲフォンの『恋のT...』(1976)って「ハイそれまでョ」のオマージュですよね?”と返すと、盛り上がっていき、“クレイジーケンバンドの「スポルトマティック」(2002)がその流れを継承しているのではないか?”という仮定にまで至りました。


ポップ・ミュージックの歌詞において、青島幸男(1932年生まれ)~近田春夫(1951年生まれ)~横山剣(1960年生まれ)という系譜は、存在するのではないだろうか? ご存知のように、この3人は歌詞だけではなく、文章の達人でもあります。



 さらに、年末、ある雑誌のために桑田佳祐さん(1956年生まれ)の1万字インタヴューをしました。

茅ヶ崎と博多――生まれは違いますが、子供の頃に『シャボン玉ホリデー』(1961~1972)の刷り込みを受け、ザ・ビートルズ(1960~1970)を聴くことが親不孝だった頃に、レコード、ドキュメンタリーを含む日本公演の放送(1966)やFENのオンエアなどからで興奮し、青山学院と中央――大学は違いますが、骨董通りにあった<パイドパイパーハウス>ほかでリトルフィート周辺を掘っていく。

 約9年ぶりのソロ・アルバム『MUSICMAN』の全17曲や、それらに現われた華麗なる加齢を含め、いちいち同世代であることと、ポップ・カルチャー体験がかぶることの幸福を感じた取材となりました。

そこで、日本語でモノを考え、書き、編集する自分(1956年生まれ)が敬愛するーー先輩・同世代・後輩の“ニッポン語の革命家たち”をゲストにお招きし。彼/彼女たちから、まず、文体で影響を受けた人々の話を伺い、そして、影響を与えた文体についてトーク・セッションをしよう! というアイディアが浮かびました。


<新世界>の現場では、遠慮なく個人的な視点や興味でおしゃべりをし、だいたい8~12名くらいのゲストとのトーク・セッションを行う予定です。

その体験を経て、1960年~2010年における、時間軸のある“文体地図”のようなものを作ってみたい! と考えています。今回は、”丘パン”のように5年もかけずに。


という次第で、Uストリームはしませんし、まんま対談集という形ではおそらく世に出ないと思われますので、ご興味のある方は、ぜひ、現場に足を運んでいただけると、幸いです。

≪第1回:近田春夫 歌う言葉/批評する文体(ロックンロール編)≫へのお誘い


□会場:西麻布<新世界> 

 ※場所は、日比谷線/都営大江戸線「六本木」駅から歩いて8分くらいです。

http://shinsekai9.jp/map/

 ※会場はシアター的な設計、ゆったりとした椅子約50席、男女別のお手洗いもあり。

 http://shinsekai9.jp/about/

 ※禁煙か? 禁煙か? は、当日のゲストの希望で決まります。但し、休憩中は喫煙スペースが設けられます。

 ※フードは軽食程度ですが、ドリンクはヴァラエティに富んでいます。

□2月8日(火) 19時開場/20時開演 ※22時15分頃終演予定

□第1部(約1時間) 近田さんが歌詞・文章・MCの上で影響を受けた人々について

 休憩(約15分)

 第2部(約1時間) 近田さんが影響を与えた文体について

□ご料金:2,500円(ドリンク別)

□予約の方法:<新世界>のホームページをご参照ください。 

 http://shinsekai9.jp/ticket/

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
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Photo by Katsuhide Ueda


去年の春、須永辰緒アニキ~敷島こと、安治川親方のご紹介で足を運んだ<板橋のゴッドハンド>のおかげで、体調がどんどん良くなり。

また、秋、クレージーキャッツ原理主義者の建築家・上田克英氏設計による、SOHOのリフォームも完成し。

いわゆる、「整いました」ので、新春、西麻布<新世界 >からいただいたイヴェントのオファーを引き受けました。


とはいえ、『文化デリック(下井草秀+川勝正幸)のPOP寄席』(05~08)は、あくまで高円寺<円盤>という、田口史人店長が司る磁場の強い祝祭空間あってのこと。


元・自由劇場があった場所にできた<新世界>は、僕が30代~40代前半に、素晴らしい音楽を、旨いお酒とエッスニック料理と一緒に、粋な野郎どもやいい香りのする女性たちと体験した、今は亡き渋谷<ワロンワン>に青山<サルパラダイス>、現在は白金でリ・オープンした高樹町<クーリーズクリーク>、今なおキープオンする青山<CAY>の元スタッフたちで運営されています。


そこで、次のようなイヴェントを考案し、2月からだいたい月イチのペースでスタートします。


【タイトル】

川勝正幸プレゼンツ『ニッポン語の革命家たちの、文体レッスン』


【コンセプト】
例えば、青島幸男×植木等「ハイそれまでョ」(62年)から、みうらじゅんの「ゆるキャラ」(02年)まで――初めは異端のクリエイターがポップ・カルチャーのフィールドで発したオキテ破りの言葉は、まず、クールな人々に伝染して新しいモノの見方も与えるものの、街場に浸透していく過程で意味も拡散していきます。

一方で、宇川直宏の「ヤバい!」の如く、ストリートから拾ったフレーズを“SUPER BAD”の意味で連発していくうちに、気がつけば、カンパニー松尾にハメ撮られている女のコが「イク!」の代わりに「ヤバい!」とか連呼したりなんかしちゃったりして……


<新世界>のイヴェントでは、エディターの川勝自身(56年生まれ)が影響を受けた“ニッポン語の革命家たち”から、彼/彼女の文体練習のヒストリーを聞き出していきます。


【第1回:近田春夫氏と

第1回「歌う言葉/評論する文体 ロックンロール編」のゲストは、音楽家・文筆家の近田春夫氏。第1部では近田さんが影響を受けた言葉/文体(クレージーキャッツ、フィリップ・K・ディックほか)を、第2部では影響を与えた言葉/文体(“意味として”、“大きく二つに分ければ”など)を題材にトーク・セッションする予定です。



司会・構成/川勝正幸
ゲスト/近田春夫

日程:2011年2月8日(火)

開場:19:00

開演:20:00

料金:2、500円+ドリンク代


なお、第2回の日程とゲストは、当日、発表させていただきます。


それでは、みなさまのご来場を心よりお待ちしております。
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近田春夫著『ヴァイヴ・ライム』(94年刊、デザイン:マイク・スミス、編集:川勝正幸)