今日はいつもお邪魔しているahaha堂さんの企画に乗っかってみます。
最近馬鹿記事ばっかり書いてますから、今日はいくらかしっとりしてみんとてすなり。

結局馬鹿でしたね…



一見地味に見えるが、はっと目を引く萩の花が表紙の文庫本。
『幸田文の箪笥の引き出し』(青木 玉 著、新潮文庫)

著者青木玉さんがそれぞれの着物によせて、ご自身と母である幸田文、祖父である幸田露伴の思い出を綴ったものが集められている。
合間にあるカラーページが目に鮮やかで、粋な着物暮らしの様子が伝わってくる。

これを読んでいて思うのは「昔の人は何て手間のかかった、豊かな暮らしをしていたんだろう」という事。
今の世から見ると、もう贅沢なくらい手間がかかっている。
もちろんそういう時代だったから、そうするしかなかったという事もあっただろうけれど,
それでも、その手間をも楽しんで暮らそうとする幸田文さんの姿勢が、読んでいて小気味よい。
洗い張りの話など、昔の人は文字通り季節を肌で感じていたんだなあと思う。

中でも一番好きな話が『すがれの菜の花』
母である文さんが、少女時代初めて自分で好きな色で染める事を許された着物の話から、さかのぼって子供時代の菜の花畑の思い出。そして色々な意味で意外な仕上がりだった「健康優良菜の花」の着物をめぐった数奇な物語へと続く。

短い作中には、結構辛い話題が出てくる。けれど、この作品全体はそれほど辛くなく読めてしまう。
それはきっと全編にそこはかとなく流れる、一面の菜の花畑のイメージからくるものだろう。
暖かな春風に誘われて、いちどきに咲き誇る菜の花。
その緑と黄色のたくましさと、すがすがしさが人の心にも新たな希望を呼び込むのかもしれない。
事情があってしばらく幸田家に身を寄せた女性が、再縁する際に望んだ品にもうなづける。
うなずきながら、読んでいるこちらの胸にもしみこんで来る切なさ。


春の宵、過ぎ去りし時の流れを想いつつ頁をめくるのも、また一興。