星見町は、過疎と高齢化が進む典型的な山間限界集落の小さな町だ。

産業は乏しく、若者は都市部へ流出し、残されたのは年配者と、わずかな生計を立てる者たちだけ。

町営ジム「すこやか星見」は、町が唯一誇れる「福祉の成功例」として注目を集めていた。

しかし、そこは同時に、町の縮図でもあった。

 石田良平は、そんな町に「都会の喧騒を離れ、静かに暮らしたい」と移住してきた。

だが、彼は運動が大嫌いで、長年の不摂生が祟り、情けないほど太ってしまった。

若い頃軽くこなした懸垂運動が1回たりとも出来なくなっていた。

医者から「このままでは危ない」と脅され、渋々ジムに通い始めたものの、春江のような健康志向の人々は最も苦手な存在だった。

できることなら関わりたくない。

そんな思いでジムに通っていた彼が、まさか「町の抗争」に巻き込まれることになるとは夢にも思っていなかった。

 坂井春江は、かつては町の中学校で生徒たちを鍛え上げた体育教師だった。

独身の自由な生き方を選び、今は亡き両親が住んでいた大きな家で悠々自適の年金生活を送っている。

しかし、その「余裕ある生活」が、町の一部の住民には妬ましく映っていた。

「私たちが日々生きるのに必死なのに、あの人は……。」

そんなささやきも少なくない。春江自身も、それを感じつつ表には出さず、ジムでの健康維持に励んでいた。

春江がジムで人望を集めるのは、その指導力だけでなく、「強く生きる姿勢」への憧れと反発が入り混じっていたからかもしれない。

 大久保修一は、議員報酬が目当てで町会議員になったという残念な男だ。

町の未来を思うわけでもなく、ただ「生活のため」に議員という肩書きを利用してきた。

その本質は町民に見透かされ前回選挙で落選。だが、過疎の町で働き先もなく、これからどう生活を成り立たせるかに悩んでいた。

「ジムを利用して、自分の影響力を取り戻せば元に戻れるかも」

その思いが、今回の事件の発端だった。

春江たちのグループが目障りだったのは、彼女たちが眩しく自分が惨めに映ってしまったのかも知れない。

 この物語の背景には、地方の過疎地特有の「閉塞感」と「人々の苦悩」がある。

働き口がなく、将来への希望も薄れつつある町で、人々は生きるためにあがき、時に他者を羨み、排除しようとする。

町機能は近い将来成り立たなくなるとも言われており、どうやって打開すべきかを模索している。

春江は「持つ者」として無意識のうちに疎まれ、修一は「失った者」として焦り、良平は「逃げてきた者」として新たな居場所を探していた。

しかし、最終的に修一が追い出されたのは、町が「自らの過酷な現状や過ち」を認め、より良い方向へ進もうとする一歩でもあった。

春江たちも、ただの健康志向グループではなく、この町で自分たちなりの生きがいを求めていた。

良平は、そんな彼女らの姿に触れ、「健康に後ろ向きだった自分」が少しだけ変わるきっかけを得た。

終わりに

物語は「ジムでの小さなトラブル」という形で表面化したが、その裏には町の過疎、貧困、嫉妬、権力への執着といった、地方社会が抱える複雑な感情と現実が渦巻いていた。

事件は終わり、ジムには再び平穏が訪れた。しかし、それは「完全な終結」ではない。町の抱える問題は、今もなお存在し続けているのだから。