「ほら、もう少し!あと5回!」

坂井春江の声が響き、彩乃が必死にバーベルを持ち上げていた。

「ハア、ハア……先生、もう無理ですよ……」

「甘えない!甘えない!自分に負けたら終わりよ!」

そんな光景を横目で見ながら、石田良平は「元気だなぁ」と感心していた。

彼はランニングマシンの上でチンタラ歩きながら、町の穏やかな空気を感じていた。

自分がこんなところで運動をすることになるとは思いも寄らなかった。

サラリーマンの頃の自分は激務でジムなど無縁な生活ぶりだった。

出勤前にランニングしたりジムに通っている同僚には

「自分の健康だけなのかい?」「そのエネルギーを社会の為に使ってみたら?」

そんな嫌味を言っていた自分を思い出していた。

自分の健康も気遣えない生活ぶりの自分への険悪感が吐かせた言葉だったと今では思っている。

「あなたには健康になろうという意思がまったく感じられません」

「あなたが健康になることによって社会も良くなっていくのですよ」

「そのために私達医師も存在しているのです」

そう説いてくれた主治医の言葉が、間違っていた自分を見直すきっかけだった。

此処に移住してきて町営の小さなジムを教えられ通うようになったのだ。

その時、ジムの隅から声が聞こえた。

「ジムが使いにくくなったもんだ。」

振り返ると、そこには大久保修一が腕を組み、春江たちを睨みつけていた。

良平は「あの人物は何か変だぞ……」と思いながらも、気にしないように運動を続けた。

しかし、この瞬間から、良平の平穏な田舎暮らしは少しずつ崩れ始めていた——。

 

続く・・・かも