揺らぎ

巨大企業が分割されると当然そこに働く人々にとって思わぬ変化を強いられることになる。

電力会社は今、発電・送配電事業者に分割された。

中部電力は更に送配電から小売事業を切り離した。

社員にとっての個人の希望や適性は多分恐らく無視されて事は強行に行われた。

中央制御室の揺らぎと騒音の中で定年を迎えるはずだった者が、新電力に奪われた顧客を取り戻そうと駆けずり回る人生に変わる。

人生は自分ではどうすることも出来ずに揺らぐものだ。

この発電所は三峡ダム発電所の４分の1の出力を誇る、かつては世界最大だった火力発電所だ。

LNG燃料の燃焼煙は幾重ものフィルターを通って完全に除去され、煙突の先から出る気体は無色透明の二酸化炭素だ。

そして燃焼効率50%のボイラーが産んだ熱の大半が冷却水を温めて沿岸の海底から海中に放出され続けている。

その放出口の真上の海面に小舟が集まってくる。

四六時中放出されている温排水の影響によって伊勢湾奥地とは思えない多種の魚相が形成されている。

この小舟は船長曰く「知り合いの漁師から借金のかたに取り上げた」代物らしい。

かなりの年代物で有るらしく先日エンジンが壊れて漂流した。

幸い風向きが幸いして陸地に漂着した。

エンジンの修理代に24万支払って直して10日と経たずに又調子が悪くなってドッグに入れると「直らないので新品に替えろ」なった。

そのことに気の良い船長も憤慨している。

船上からドッグに電話して「請求書から24万を差し引いて明日振り込むから！」ガチャン。

釣り好きが高じて船まで持ってしまったという船長だが、100万もするという新品エンジンは痛かったようだ。

そんな船に好意で乗せて貰って、1日中温排水の揺らぎの上で釣りをしていたら今朝になってもまだ体が揺れている。