この湖に怪獣が棲息していることは今のところ地元民だけが知ることである。

思慮深く口固い地元民は「村を救ってくれる最後の資源かもしれない」として怪獣を温存している。
きっかけは毎年村を訪れる釣り人の言葉だった。
「年々魚は減少している」

それを聞いた村人は秘密裏に調査を始めた。

※「風も無いのに湖面が揺れているのを見たぞよ」

千鳥足のおじいさんが証言した。

※「水鳥が湖に潜ったまま浮かんでこないのよ」

白内障のおばあさんが証言した。

※「岸辺にいた鹿が目を離した隙に消えてたのにはビックリしたよ」

オオカミ少年と呼ばれている小学生が証言した。

善良無垢な村人の証言は事実に違いないだろう。

次第に真相が解き明かされていった。
あの時から異変が始まっていたようだ。
あの時とはあの時だ。
すさまじい集中豪雨で山が崩壊し何人もの村人が犠牲になったあの時だ。
その崩れた山肌に不可解な跡が残されていたことを村人は思い出した。
偶然の神の悪戯だろうと直ぐに忘れ去られてしまったが、恐竜のように大きな獣の形を覚えている人は今も多い。
ああ、そうだったのか。
山に封じ込められていたんだな。

それがダム湖に落ちた。
謎は解けた。
ただそれだけだ。
誰も怪獣を観たことはない。
しかし、疲弊した村を救う最終手段として怪獣は村人の心の湖底で棲息し続けているのだ。

家の地下室では観光用ボートの制作が着々と進められている。

湖に漕ぎ出す時も近いかもしれない。

 

花子、「大分ギブスを観すぎたようね」