次なるドキュメント
スリップし続ける私に、I医師は特効薬を出してきた。
「30年来断酒を続けてる人が主催する断酒会がある、会場はあんたん家の近くだから行け行けホイホイ」
そう言ってI医師は携帯を繋げて私に投げてよこした。
I医師はもう私の治療は終わったという様子で机に向かっている。
携帯の向こうからは主催のI氏が、
「辛いね~それは。おいでおいでホイホイ」
軽い感じなのだが、何故か相手に惹かれるものがあって乗った。
当たった。
効果てきめんスリップは止った。
メカニズムはこうだ、
断酒会は2週間に一度、市の施設を借りて日曜の午後に2時間開催される。
頻度と会場と時間帯が私には大変都合よかった。
2週間断酒を続けて例会で皆に報告し次の2週間の断酒を誓う、更に次の2週間、更に、更に・・・・。
と続いていく、不思議と継続できるのだ。
あれほどアルコールに延びていた手がピタッと止まった。
たぶん、I医師は頃合いを心得ていて私を断酒会に送り込んだのだろう。
断酒会が最大の効果を生む頃合いというものがあるのだろう素人には解らないが。
そこでアルコール依存症の克服なんて簡単なんだ。
と思ったら大間違いだ。
私のように毎度例会に出席できる人ばかりではない。
職を持っていたり、遠方であったり、例会に来れない人は断酒継続の波には乗りにくい。
事実断酒会で聞く話には悲惨な結果も多いのだ。
12年続く会だというが、12人のメンバーが亡くなっていったという。