次なるドキュメント

 この時まで私には家に独立した部屋が無かった。

勤めていたときは寝に帰るだけだったので言わば布団が私の部屋であった。

私の部屋は昼間押し入れに仕舞われていた。

妻が介護ベッドを使うようになってから私は妻の使っていたベッドを使うようになった。

リビングの窓際に据えたベッドが私の部屋(居どころ)となった。

ところが甚だ居心地の悪いことになる。

妻の介護に訪れた人が居るときに私がベッドで寝転んでいる訳にはいかない。

妻の部屋はリビングに接して襖は開け放しているから私の様子は丸見えである。

私は所在なさげにウロウロしたりキッチンに入り込んで禁断の液体に手が伸びてしまったりした。

そこで永く物置部屋として足を踏み入れることもなかった部屋にベッドを移すことにした。

しかし其処には私以外の物が大量に有り、私が片付けようにも判断が出来ず途方に暮れるばかりで進まない。

そこで息子たちに片付けてもらいベッドを移したがそれは一瞬の早技で終わった。

ようやく自分の休憩場所が与えられた。

もうひとつ、

3匹の猫が息子の元に引き取られた。

妻が大事にしてきた猫ではあるが私は自分の精神安定のために猫を遠ざけたのだ。

猫の世話をする余裕が無いほどに私は病んでしまっていた。